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talent ページ18

「あ、またミスった」

「あーもううるさいなー、集中切れた」


16分音符をひとつずさんに弾いてしまっただけなのに、咲玖は意地悪に指摘してくる。

時計を見たらもう17時になっていた。
昼から弾いてる俺よりも、その横でずっと暇を持て余している咲玖のほうがすごい。

どんだけ暇なんだ。


「うわあしたもふりゆうわ」

「え?」


咲玖の方言には慣れたけど、早口で言われると未だに聞き取れないものもある。

彼女は、クラスでは標準語を話すのに、俺の前ではちっとも努力しないようだ。


「明日も、降るわーって。雨」

「あー、なるほどね」

「梅雨が終わらんね」

「んー……、ていうかさ」

「なん?」


「俺の前では なおす気ないのね、方言」



.



窓の外を見る咲玖の唇が、つやりと光った。

なんにも塗っていないのに、赤くて潤っているそれ。真っ赤に塗ったマニキュアよりも綺麗だと思う。

あ。咲玖が綺麗に見えるときだ…、と、そう思って身構えた。


「…和也くんは、そうゆうの分かるやろ」


黒い瞳が、こっくりとそこにある。咲玖が普通じゃなくなる瞬間。


「そうゆうの?」

「ウソとかホントとか、そうゆうの」


とんとん、と慎重に足の爪を触って、乾いているかどうか確認をしている。

軽いシンナーのにおいは、もう慣れてしまって分からなくなっていた。


「智くんは元気?」


智くん。

咲玖の口からその名前が出たのは、2度目だ。1度目は、初めて会ったとき。

つまり、咲玖は今まで、まるで忘れたかのように智の名前を口に出さなかった。


「ああ…、まあ元気っていうか、うん、元気なんじゃない?」

「なんそれ。いつも一緒におるやん」

「一生一緒に居ても分かんないイキモノなんだよ、あいつは」


首に痛々しい跡をつけた無防備な寝顔を思い浮かべて、切なくなる。

智は基本的には元気だ。痛みも苦しみも知らないような顔をしている。

だから、分からない。何を考えているのか。


「その顔」

「え?」

「やばいで、」

「やばい?」

「和也くんさ、自分が思ってるよりやばいで」


咲玖が、瞳と同じ色の髪を、耳にかけた。

小ぶりな白い耳が、ちょこんとついている。唇の紅。マニキュアの赤。肌の白。髪の黒。

空気がぶれて、セピア色の写真みたいに見えた。赤だけ、浮いている。




「うちね、ADHDもっとる」




暗くて深いクラシックが好きだ。


人ってなんで、悲しいときに一番、綺麗なんだろう。




.

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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時

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