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teachers? ページ14

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時計の針は、無機質に時間を刻んでいた。美術室の時計は、なんだかおしゃれな形をしている。

松本先生がコーヒーの缶を潰して、ゴミ箱に投げ入れる。

いちいちスタイリッシュだ。ゴミを捨てただけなのに。


「ピアノの練習、今日はいいの?」

「えっ、なんで知って…」

「大野が言ってた。ピアノ弾くんだろ?」


先生の言葉に、耳を疑った。

智が、俺の居ないところで俺の話をしている?あの、目の前のことに夢中になって会話もままならない智が?


「智が?言ってたんですか?…信じらんない」

「そんな驚く?(笑)」

「だって…」

「去年の、夏休みかな?…ここでお前の口描いててさ」

「くち?」

「うん……まだあったかな…たしかその辺に…」


ごそごそと、教室の奥に乱雑に立てかけてある絵画や、画材などを漁る先生。

どうやら智は、出来上がった作品は 未練もなく ずさんに積み上げていくみたいだ。


「あったあった」と先生が取り出した、大きめのカンバスには、まあなんとも器用に、俺の口が描かれていた。

笑った形の口だ。めちゃくちゃ似ている。

でもそれはよだれを垂らしていて、歯がピアノになっていた。


「よだれ?」

「ふふ…、どうだろうな?」


松本先生はおかしそうに、愛おしそうに笑う。
何かその作品について知ってるみたいだけど、教えてはくれないみたいだ。


「泣いてるみたいに弾くんだってさ」

「え?」

「『カズはピアノが大好きで 大嫌い』」



一瞬、時計の音が聞こえなくなる。


『カズはピアノが大好きで 大嫌い』


胸がいっぱいになって苦しくて、智を見た。


なんにも知らなそうなマヌケな寝顔だ。起きたときの、数回のまばたきが 信じられないくらい美しいのを、俺は知っている。


カズはピアノが大好きで 大嫌い。

大好きで、大嫌い。


「その顔。…図星?(笑)」


去年の夏休み。


海で、智の前で、ピアノが大嫌いだと叫んだ。

ピアノが大嫌いだと、叫んで、呟いて、泣いた。


あの夏だ。あの、惜しみなくたおやかな、夕日の光。ピンクとオレンジ。


大キライ。その、大嫌いのなかに、『大好き』が住み着いているのを、既に智は分かっていたというのか。


「そうかもしれないです…」


俺は、ピアノが大好きで 大嫌い。

それっていったい、どういうことだろう。


【本当に美しいものは、見る人に喜びや感動を与えるだけでなく、悲哀や焦燥を感じさせる】



本当のことは いつだって

智に、見透かされている。



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きんにく(プロフ) - くろしばさん» 温かいコメントをありがとうございます、他の作品のことも見てくださっているのですね・・・こちらこそ感謝が足りません。日々精進していきます!ありがとうしか言葉がでなくてすみません(笑) (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
きんにく(プロフ) - ゆきのすけさん» 素敵なお言葉をいただけて嬉しいです!知識不足文章能力等、まだまだ課題はたくさんですが、そう言っていただけると救われます。一生懸命書きます!ありがとうございます。 (2020年6月1日 22時) (レス) id: ef9ab81a93 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - 唯一無二のストーリーはもちろん、その繊細な文章構成や選び抜かれた表現にはいつも驚きや優しさがあり、とても強く感情を揺さぶられます。この作品をはじめ、きんにくさんの作品に出会えたことに感謝するばかりです。微力ながら、これからも応援させていただきます。 (2020年6月1日 2時) (レス) id: a32bce887b (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - 情景が、主人公の表情が、心情が、胸が痛むほど繊細に流れこんできました。考えること無く流れこんでくるそれはとても心地がいい筈なのに、その分強く心を揺さぶられました。この作品に出会えて良かった…有難う御座います。これからも、心より応援しております…! (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)
ゆきのすけ(プロフ) - シリーズの一話を何の気なしに覗いてから、気付いたら狂ったようにこの作品だけを、求めて読んでいました。20年間生きてきて、占ツク以外でも沢山の本を読んで来ましたが、こんなにも引き込まれた物語は正直言って初めてです。 (2020年5月31日 20時) (レス) id: cfd9b5973a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年5月17日 12時

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