【ユーリ!!!】野球女と銀盤の王子2 (ページ14)

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フィギュアスケートの競技人生は短い。

　勇利の年齢でさえピークと呼ばれるほどの年齢だ。

　野球ならば三十代後半でも現役の選手は少なくない。

　そこに花火のような儚さを覚える人もいれば眉を寄せる人もいるのだろう。

「勇利きちんと足のケアしてる？」

　休憩中にシューズを脱ぎ傷付いた素足を見て言う。

　私は地面に片膝をついて彼の足をほぐす。

「自分ではできてるつもりなんだけど……」

　足を触って軽く動かしてみると、そこまで支障があるような足の硬さではない。

「……足の筋肉は硬くないから大丈夫だけど肌も大切にしてあげた方が良いよ」

　散々こき使ってきたスケート選手にとっての大切な足だ。

　体の中の筋肉だけではなく、外も労ってあげてほしい。

　私は彼の足に普段がハンドクリームとして使用している保湿クリームを丁寧に塗りこむ。

　花の香りが鼻腔をくすぐる。

「……うん。そうだね」

　どこか考え事をしているのか勇利の返事は端的だ。

「何か悩み事があるの？」

　勇利は黙ったままだ。

　言いたくないのならそれはそれで良いのだろうと、彼の足のケアに専念していたら頭上から声が聞こえた。

「今までずっと一人で戦ってると思ってた。でもヴィクトルが現れてそれが変わったんだ……」

　ポツリポツリと言葉を考え絞り出すようように彼は言う。

「僕達の競技人生は短い。きっとこれが僕のラストシーズンになると思う」

「うん。」

　私はただただ相槌をうって彼の話を聞く。

　足のケアを終えて保湿クリームの缶のフタを閉める。

「だからこのシーズンどうやって生きようか少し、考えてた」

　そうか……彼も彼なりに迷っているんだね。

「だから、僕の競技人生のために、そのためにAの時間をください……」

　勇利って本当に真面目だな。

　私は肩をすくめて笑う。

「勇利って本当に真面目だね。私は志願して勇利に時間を上げてるのに」

　あと、その台詞ヴィクトルにも言ってあげれば良いのに。恥ずかしがってか私にしか言わないんだよね。

「勇利ーそういえばこのフリーの曲、曲名決めてなかったよね。どうする？」

　ヴィクトルに呼ばれた勇利はシューズを履いて彼のところへ向かう。

　私も後から追う。

　勇利はすでに曲名を決めていたらしく、素早くCDのオモテ面へペンを走らす。

「うん。完璧」

　そう言ったヴィクトルの後にCDを見ればタイトルが書かれてあった。

　YURI ON ICE

　最高のタイトルだ。