Quite Talk

ジンクス(すぐ近くにいる ki) 4 ki ページ10

商談をマッハで終えたのに
そのまま資料の説明や今後のスケジュールの打ち合わせで捕まって
事務所に帰ってこれたのは夜だった。



「ただいまー」

「「おかえりなさい」」



さすがに残ってるメンバーは少なくて。

例の子と数人。



そしてAは居ない。



まぁこの時間だしな、なんて思いながら席に向かうと

「報告、見ました。お疲れ様でした」

例の子が声を掛けてくる。

「や、昨日手伝ってくれたからだよ。ありがと」

何とか笑顔で話しかけると
その子も普通に返してくれたから少しホッとする。



「じゃあ、私、帰ります」

「おー、おつかれ」



その子が席を立って帰ろうとして
すれ違いざまに

「Aさん、今日1日メガネでしたよ」

小さな声で言う。



…泣いたんだろーな。



「あと、今日二階堂さんとめちゃくちゃ仲良さそうにしてました。笑いあってましたよ」

ズキッと胸が痛くなる俺にニッて意地悪な顔で笑うその子は

「お疲れ様でーす！」

俺には背を向けて明るく挨拶して帰って行くから
今までと違う愛想の良さに皆が驚いてる。



とりあえず、今日の仕事終わったら
Aに会いに行かねーと。



最低限の仕事を終えて帰ろうとするとまだ二階堂が居て。



…珍しいな。

二階堂、こんな時間まで残る事とかあんまねーのに。



「おつかれ」

カバンを持って二階堂に近づくと

「あ、お疲れ様です」

疲れた顔で俺を見上げる二階堂。



「どした？仕事詰まってんの？」

「あー、いや、詰まってると言うよりは…」



二階堂のパソコンの画面を見ると
見てる資料はAがよくやってる仕事だった。



「ん？どした？」

「…んーーー」



少し黙る二階堂は

「ま、いっか。Aさん帰ったし」

呟くと

「Aさんの仕事引き継ぐ事になったんです。1ヶ月間」

なんて爆弾発言。



「は？」

「掲示板にお台場の支店の欠員出てるの載ってたじゃないですか。Aさん、あれに行くんです。明日から」

「は？明日！？」

「ねー、急でしょ？信じらんない」



口を尖らす二階堂は

「昨日失恋したんですって。だから環境変えたいって言ってました」

不満そーに呟く。



……マジでか。



「……アイツは失恋なんかしてねーよ」

呟くと

「へ？」

二階堂がびっくりして顔をこっちに向けるけど。



反応してる暇はない。



「ちょっと仲直りしてくる」

「…は？……へぇっ！？」



マヌケな顔をしてる二階堂に笑うと
事務所を飛び出した。

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