Quite Talk

ジンクス(すぐ近くにいる ki) 4 ページ9

「これでよし、と」

事務所で引き継ぎを終えた私は

「じゃ、後はお願いね」

二階堂君に言う。



「…ホントに行くんスか？」

二階堂君は悲しそうに言うけど
キミが心配してるのは自分の業務量が増える事なのを私は知ってる。

「うん」

だから私に迷いはない。



「みんなには明日まで…」

「はいはい、言いませんよ」



何度も念を押す私に聞き飽きました、って顔で二階堂君は言って

「いくら失恋したからっていきなりヘルプ行きます？」

「二階堂君と違って若くないから髪を切って失恋を断ち切れる訳じゃないの」

「だからって1ヶ月も居なくならなくても…」

ブツブツとちっちゃく文句を言う。



私は明日から1ヶ月ヘルプで支店に行く。

ここから物理的に離れて気持ちを切りかえて
宏光を見ても平気なようになりたかった。



「メールしてくれていいし、なんならサーバーで二階堂君の仕事もチェックするから」

「えー、いいッス。自分で出来ますよ」

「よく言うよ、昨日も資料の数字1桁間違えてたのに」

「……なら急に支店なんか行かないでよ」



まだ不満そうな二階堂君は

「マジで意味分かんないや」

拗ねた口調で呟く。





「いいじゃん、仕事の文句言うおばさん居なくなるよ？」

「や、そーじゃなくて。Aさん振るとか元カレ見る目無さすぎっしょ」



私の方を見ずに呟く二階堂君に
ちょっとグッとくる。



「ありがとう、惚れてくれて」

「や、俺には可愛い彼女居るんで」



二階堂君はようやく顔をこっちに向けてくれて
人懐っこくニッて笑うから
私も釣られてやっと笑う事が出来た。



「やっぱAさんは笑ってた方がいいよ」

二階堂君が少し照れ臭そうに
でも本音を言ってくれたから

「ありがとう」

私もお礼を言って笑う事が出来た。



そのタイミングで

「あの…申請で分からない事があるんですけど」

例の子が声を掛けてきて。



私の体に緊張が走ったけど

「はいっ！僕聞きます！どうしました？」

二階堂君がやる気を出して聞いてくれてるから
私はそっと離れた。



チラッとその子がこっちを見た気がしたけど
そのタイミングで課長に呼ばれて離れたら
戻る頃にはその子は居なくなっていた。

正直、ホッとした。

いま例え業務の事だとしても何を聞かれても
普通に答えられる自信がないから。



そして課長から早速引き継ぎで支店に来て欲しいって言われたって言うので
二階堂君にだけ「行ってきます」を伝えて
そっと事務所を出た。

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