太陽の当たる場所 9

after Dahlia 1 ページ43

ニカとの生活は
まるで今まで別で暮らしていたのが
嘘みたいだった。

付き合い始めのすれ違いもあったし
色々揉めるかなーって思ってたけど
そんな心配は杞憂だった。

ものすごく楽で
穏やかな日々。



気がつくと年が開けてて2020年。

オリンピックが開かれる年だから
なんだか年明けからみんなソワソワしてる。



けど私とニカは相変わらず。



「ただいまー」

ニカがシャワーから出てきて
リビングに来ると

「おかえりー」

カウンターキッチンから返す私。



「今日なに？」

「ブリ照り」

「わ、さいこー」



テーブルにつくニカに

「ビール？」

「ん」

飲み物を確認して
冷蔵庫からビールを取り出してビアタンブラーにうつして自分の飲み物を持ったまま渡すと
無言でタンブラーを掲げるから
私も手にしていた焼酎のグラスを掲げる。

無言で乾杯するとニカはそのままビールを飲んで
私もグラスの焼酎を1口飲むと
ニカはご飯を食べ始めて私はカウンターに戻る。



もはやルーティン。



少しして

「……ん？」

ニカがふと声を出すから

「どうかした？」

もう一杯を作り始めながら声を掛けると
ニカはリビングの一点を見つめてる。



「これ、なに？」

ニカの視線の先にあるのは5cmくらいの蕾の一輪挿し。



…先週からあるけどな。



「花の名前が分からないんだけど八百屋さんがくれた」

「は？」

「駅前の青空市八百屋さん。野菜買ったらサービスでくれたの」

「え、また行ったの？青空市」

「ううん、先週」



ニカはそこで顔をこちらに向けて

「…ごめん、全然気づかなかった」

悲しそうに言う。



ニカは最近ものすごく忙しい。
ライブの構成で佳境みたい。

先週が山場だったらしく
リビングに資料を広げて自分たちの歌を流しながらずーっと考え事をしていた。



大変そうだったから
先週はご飯を買いに青空市に行った事くらいしか話してなかったから

「私も特に言わなかったしね。しかも咲くかどうかもか分からないんだ」

あえて明るく言う。



「え、そーなの？」

「うん、だからくれたんだよー」

「へー！」

「しかも夏から秋の花なんだって。だから、咲かずにこのまま枯れちゃうかも」

「ふぅーん」



ニカは少しして

「来週には落ち着くから」

こちらを見ないで言うけど。



「ねぇ、また今度にしよ？」

「しない」

「ここで過ごそ？」

「行くから、新潟」



そう、ニカは来週の私の誕生日に
一緒に新潟に行くって言って聞かない。

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