最後にしなきゃ ページ41
Aside
朝になって、私の乗る電車とっくに動いてるんだけど。
この夢のような時間が終わるのが嫌で、
せっかくだからたいぴーを見送りたくてそのことは言わずにいた。
マネージャーさんが切符を発券に行ってしまった時に、
「私、飲み物買ってくるー。太輔なんか欲しいものある？」
「あ、野菜ジュース欲しい」
「おっけー」
アコちゃんが売店に行っちゃって私とたいぴーの2人になった。
御礼とお別れ言うなら今だな。
「今日はありがとうございました」
「えっ？」
「藤ヶ谷さんが一緒にどうぞ、って言ってくれたおかげで、今日過ごせたから」
あの場でたいぴーが言ってくれなかったらネカフェ行きだった。
「いや、俺の方がありがとうなんだけど」
「え？？」
…なんで？？？何かしたっけ？
くすっと笑うだけで、たいぴーは答えない。
「てかさー、呼び方。藤ヶ谷さんって距離感じるんだけど」
「…たいぴー呼びは勢いなんでもう出来ませんよ」
本人目の前にたいぴー呼びは私からしたら失敗なんだけど。
「いいじゃん、いつも呼んでくれてるんでしょ？」
…まぁもう会うこともないし、いいか。
「…じゃあ、ねぇ、たいぴー」
ピクってなって、顔が真っ赤になるたいぴー。
すっと私に背を向けて応える。
「ん、何？」
「…照れるなら呼び方変えさせないでよ」
なんなのもう。
おかしくなって笑った。
「ごめん、何？Aちゃん」
たいぴーも笑い出す。
「これからもずっとファンでいますから」
…最後だから、これだけは伝えようと思った。
そしたらたいぴーはクスって笑ってイケボで言う。
「当たり前でしょ、俺、どんどんAちゃん夢中にさせるから」
ドクン、てなった。
こんなにドキドキしたの何年ぶり？
息の仕方忘れそう。
でも私はただのファンなんだから
そんなのバレちゃいけない。
「うわー！キングだぁ、生キング！」
ふざけることしか出来ない。
そんな私に得意げに笑うたいぴー。そして言う。
「LINE、絶対返してよ」
「え？」
LINEくれるんだ。
嬉しい、と思ったら、
「だって、俺ら友達でしょ？友達ならLINEで連絡取り合うよね？」
…友達。
自分からもう当分恋はいいって言った。
相手はたいぴーだし、恋愛どころかもう連絡も出来ないと思ってた。
まさかのたいぴーからの言葉に連絡してくれるんだ、という嬉しさと、
友達と線を引かれた寂しさで複雑だった。
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作者名：shizu
| 作成日時：2018年10月5日 4時
