1話 ページ1
薫side
6月も終わろうとしているとある日の夜。
梅雨真っ只中というのによく晴れた今日は夜になってもまだその暑さを残していた。
右手には紙袋に入れられた高そうなバウムクーヘン。
今日はあんずちゃんの結婚式だった。
「ジューンブライドかぁ」
まっすぐ家に帰る気にもならず、かといって二次会に参加するほどの気力もなかった俺は帰り道にある小さな公園のベンチに腰かけそう呟いた。
「あんずちゃん綺麗だったな、」
昼間見た純白のドレスに包まれた彼女を思い出す。
高校の時からずっと好きだった。
高校を卒業してから早7年、その間ずっと思い続けていたのだ。
他の人のものになってしまった彼女でさえ、美しいと感じてしまう。
零くん達には心配されたけど案外涙は出てこなかった。
ショックとかそういう感情より呆然と言った方が近いのかもしれない。
気づいたら付き合ってて気づいたら婚約してて気づいたら式を挙げていた。
「こんなんじゃいつまでも未練タラタラじゃん」
7年、仕方ないと踏ん切りをつけるには長すぎる年月。
でもそれを言ったところで事実は変わらない。
かけた時間じゃない、想った時間じゃない、もう今更どうにもならないことなんてわかってる。
あんずちゃんが選んだのは俺じゃない。
わかってる、わかってるんだけど、
「あぁクッソ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
どうにもならない行き場の無い気持ちをどう処理すればいいかわからなくて思わず叫ぶ。
深夜の誰もいない公園だ、口が悪いのくらい許してほしい。
いつまでもここに座ってる訳にもいかない。
家に一人でいる気分ではないけど明日も仕事があるのだ。
そろそろ帰るべきかと迷っているとふと人の気配がする。
『おにーさん荒れてんねー』
「え」
『失恋？私が慰めてあげよっか』
待って、この子いつからいた？
ベンチに座ってた時は確かに誰もいなかった。
突然現れた女の子への衝撃と叫んだところを見られたのかという焦りでさっきまでのセンチメンタルは全て吹っ飛んでしまった。
「え、いつからいた、の」
『おにーさんタジタジじゃんウケる』
「今それいいから！」
『えージューンブライドかぁ、ってつぶやいたとこから？』
「最初からじゃん！」
全て見られていたのか、なんて恥ずかしい、
感傷に浸ってたところも、悔しくて叫んだところも、全部見られていた。
逃げ出したい気分だ。
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作者名：cst | 作成日時：2024年3月24日 5時
