綾辻行人の助手2 (ページ3)

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35話ページ3

綾「オッカムの剃刀という言葉を知っているか」

綾辻先生がいきなりそう云った。れ
周りは突然の問いにハテナマークを浮かばせている。

「…剃刀？」

あ「論理構築における原則。複数の論理が存在する場合、最も仮説の数が少ないものが真実である…だっけ」

答えられない先生達の代わりに私が答えた。
何回も本を読んでいたんだ、覚えてて当然だろう。
綾辻先生は「そうだ」と云って言葉を続ける。

綾「同じ料理を食べた児童達の中の一人だけが殺された…ならば理屈は簡単。全員の朝食に毒を入れ一人だけを狙って殺す、そんな毒を使った。それが最もシンプルな解だ。そういう毒は存在する…当たり前のようにな」

「え…」

先生達がまたざわめきだした。
綾辻先生はそのざわめきに耳を持たず、煙管を咥えてこう云い続けた。

綾「犯人は前日の夜のうちに食器に細工をし、ごく微量の毒を付着させた。全員の食器にな。そして…翌日、全員が朝食を摂り始めたタイミングを見計らい、被害者の少年だけ席を立たせる」

事件とは無関係とされされていた件。
誰も、此処に関連するとは思ってなかったらしい。

「では、その間に誰かが毒を…？」

あ「…毒は、もう盛ってあるんですよ。話をよく聞いて下さい」

今先程云われた事に疑問を付けるなんて凄いな。
そう思い乍ら私と綾辻先生は冷ややかな眼差しを送った。

あ「…毒が塗られたのは溶き卵容器で毒は1グラムで百万人を殺傷可能な自然界最強の猛毒。しかも毒の生産者は土中や湖底に当たり前に存在、栄養のある状況下じゃ爆発的に増殖する」

そこ迄云った処で管理人が「そうか！」と叫んだ。
如何やら納得したようだ、一応は理解のある人間なんだな。

「ボツリヌス毒素…」

綾辻先生はその言葉に頷き、こう云った。

綾「クロストリジウム属の嫌気性細菌であるボツリヌスは、強い毒素ボツリヌストキシンを産出する、危険な猛毒だ。この菌は黄身と白身を混ぜたものと接触した環境で爆発的に繁殖する。菌そのものは通常食べても体内で毒を産出しないため無害だが、食品内で増殖し毒素を産出したものを食べると、八時間から三十二時間で死に至る」

綾辻先生は室内を歩き乍ら静かに真実を云っていく。
先生達はその姿、そして言葉に言葉が出ない事だろう。
そして私はとある疑問を抱く。
__綾辻先生、体重何キロだろ…。
古い礼拝堂の床を歩いても軋んだ音が聞こえない。

あ「…否、今は関係ない事だな」

私はそう呟くと、気になって頭を抱えた。