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「安吾の鞄を見たろう。
上から煙草、携帯雨傘、戦利品の骨董時計の包みが詰まっていた。
携帯雨傘は使用されて濡れ、拭き布を巻かれていた。
そして出張地である東京は雨だった」
「なんの不都合がある?」
私は訊ねた。
「雨が降っていて、傘が濡れていた。
ごく自然な帰結に思えるが」
「安吾が真実を話していたなら、"あの傘を使えた筈がない"のだよ」
太宰は目を細めて云った。
その表情には感情らしきものは窺えない。
「安吾は自前の車を運転して取引現場に向かった筈だけど、ではあの傘は何時使われたのだろう?
取引の前じゃあない。
傘は包みの上に置かれていたからね。
そして取引の後でもない」
「何故だ?」
「あの傘の濡れ方は、二、三分使われた感じじゃあない。
たっぷり三十分は雨に打たれていた筈だよ。
それだけの雨の中に居たにしては、安吾の靴やズボンの裾も乾いていた。
取引が八時で、我々が会ったのが十一時。
取引の後三時間で使ったなら、乾くには時間が足りない」
「着替えを持っていたのかも知れない」
「鞄の中にズボンや靴の着替えは無かったし、入るだけの空間もなかった」
あるいは一度部屋に寄って、着替えを置いてきたのかも__そう云おうとして思いとどまった。
そんな事をしたなら、大事な取引品も置いてから酒場に来た筈だ。
「傘は取引の前には使われていない。
取引の後にも使われていない。
そして__"取引の最中にも使われていない"のだよ。
取引品の紙包みは濡れていなかったからね。
それに、中世の骨董時計なら水気は厳禁だ。
取引は雨の当たらない屋内で行われた筈だ」
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包帯
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織田作之助
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ミュウ=ムー(プロフ) - 教えてくださり、ありがとうございます。 (2018年9月20日 19時) (レス) id: 1429768fb6 (このIDを非表示/違反報告)
kana(プロフ) - オリジナルフラグははずさないといけませんよ。違反行為なので (2018年9月20日 19時) (レス) id: 8d50bc542b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:皇帝ペンギンM← | 作成日時:2018年9月19日 21時