検索窓
今日:3 hit、昨日:6 hit、合計:26,715 hit

1 ページ2

Aside


誰かに呼ばれたような気がして酒場に行った。


深夜十一時、幽霊のように浮かぶ瓦斯灯から身を隠すような気持ちで通りを抜け、酒場のドアを潜った。

店内をたゆたう紫煙に胸まで浸かりながら階段を降りると、既に太宰がカウンターの席に座って、酒杯を指で玩んでいた。

こいつは大抵この店に居る。

頼んだ酒を飲まずに黙って眺めている。

「やァ、A。
今日も可愛いねェ♡」


太宰が嬉しそうに言った。


最後の余計な言葉を無視し、手を掲げて返事をしながら、私は太宰の隣に座った。

何も訊ねずに、バーテンダーがいつもの蒸留酒のグラスを目の前に置いた。

「何をしていたんだ?」

私は訊ねた。

「思考だよ。
哲学的に形而上の思考さ」

「それは何だ?」


太宰は少し考えてから、答えた。

「世の中の大抵のことは、失敗するより成功するほうが難しい。
そうだろう?」

「そうだ」

私は回答した。

「じゃあ私は自○ではなく、自○未遂を志すべきなのだ!
自○に成功するのは難しいが、自○未遂に失敗するのは比較的容易い筈だ!
そうだろう?」


私は蒸留酒をしばらく眺めた後に答えた。

「確かに」

「矢張りそうだね!
我発見せり!
早速試そう。
マスター、メニューに洗剤ある?」

「ありません」

カウンターの奥の老バーテンダーが杯を拭きながら答えた。

「洗剤のソーダ割りは?」

「ありません」

「ないのかあ」

「なら仕方ないな」

私は頷いた。


改めて店内を見回す。


地下にあるために窓はない。

ひっそりとしたアナグマの巣のような店内に、カウンターと、スツールと、壁に並んだ空のボトルと、寡黙な常連客たちと、クリムゾン・レッドのカマーベストを着たバーテンダーが、一揃い詰め込まれている。

地下の狭い空間にそれだけ詰め込まれているおかげで、通路は人がすれ違うのがやっとだ。

店内のものは何もかもが古く、まるで存在が空間そのものに刻みつけられているかのような印象を受ける。


*

2→←注意ト設定


ラッキーアイテム

包帯

ラッキーキャラ

織田作之助


目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.1/10 (35 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
30人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ミュウ=ムー(プロフ) - 教えてくださり、ありがとうございます。 (2018年9月20日 19時) (レス) id: 1429768fb6 (このIDを非表示/違反報告)
kana(プロフ) - オリジナルフラグははずさないといけませんよ。違反行為なので (2018年9月20日 19時) (レス) id: 8d50bc542b (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:皇帝ペンギンM← | 作成日時:2018年9月19日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。