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Aside
誰かに呼ばれたような気がして酒場に行った。
深夜十一時、幽霊のように浮かぶ瓦斯灯から身を隠すような気持ちで通りを抜け、酒場のドアを潜った。
店内をたゆたう紫煙に胸まで浸かりながら階段を降りると、既に太宰がカウンターの席に座って、酒杯を指で玩んでいた。
こいつは大抵この店に居る。
頼んだ酒を飲まずに黙って眺めている。
「やァ、A。
今日も可愛いねェ♡」
太宰が嬉しそうに言った。
最後の余計な言葉を無視し、手を掲げて返事をしながら、私は太宰の隣に座った。
何も訊ねずに、バーテンダーがいつもの蒸留酒のグラスを目の前に置いた。
「何をしていたんだ?」
私は訊ねた。
「思考だよ。
哲学的に形而上の思考さ」
「それは何だ?」
太宰は少し考えてから、答えた。
「世の中の大抵のことは、失敗するより成功するほうが難しい。
そうだろう?」
「そうだ」
私は回答した。
「じゃあ私は自○ではなく、自○未遂を志すべきなのだ!
自○に成功するのは難しいが、自○未遂に失敗するのは比較的容易い筈だ!
そうだろう?」
私は蒸留酒をしばらく眺めた後に答えた。
「確かに」
「矢張りそうだね!
我発見せり!
早速試そう。
マスター、メニューに洗剤ある?」
「ありません」
カウンターの奥の老バーテンダーが杯を拭きながら答えた。
「洗剤のソーダ割りは?」
「ありません」
「ないのかあ」
「なら仕方ないな」
私は頷いた。
改めて店内を見回す。
地下にあるために窓はない。
ひっそりとしたアナグマの巣のような店内に、カウンターと、スツールと、壁に並んだ空のボトルと、寡黙な常連客たちと、クリムゾン・レッドのカマーベストを着たバーテンダーが、一揃い詰め込まれている。
地下の狭い空間にそれだけ詰め込まれているおかげで、通路は人がすれ違うのがやっとだ。
店内のものは何もかもが古く、まるで存在が空間そのものに刻みつけられているかのような印象を受ける。
*
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ミュウ=ムー(プロフ) - 教えてくださり、ありがとうございます。 (2018年9月20日 19時) (レス) id: 1429768fb6 (このIDを非表示/違反報告)
kana(プロフ) - オリジナルフラグははずさないといけませんよ。違反行為なので (2018年9月20日 19時) (レス) id: 8d50bc542b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:皇帝ペンギンM← | 作成日時:2018年9月19日 21時