六十一話 【黒嫁編】 ページ20
京が作りかけのうどんと共に取り残されている頃。
「わざわざ送って下さってありがとうございます…」
「なぁに、良いってことよ。どうせ、き…じゃないな、大地だって死ぬって訳じゃないんだからさ」
申し訳なさそうにお礼を言う怒乃に対して、惺はあっけらかんとした表情でそう答えるのだった。
「それにしても、わざわざお見舞いだなんて大変だね。委員長の役目ってやつなのかな?」
「あ、いえ……えっと…ただ個人的に…って感じです」
「ふ〜ん?何やら甘い香りが?」
目敏く探るような目線を送った惺に怒乃は焦ったように反応する。
「………あっ!いやっ、その、ちが…」
「大丈夫。例え怒乃ちゃんが大地にそういう感情抱いてても言い触らしたりはしないよ」
乙女心は分かってるつもりなんでね。
と、惺は続ける。
「乙女心………えっ、女なんですか?」
「いやいや、生粋の男だけども。確かに髪の毛伸ばしてたりしてるけど男だから…乙女心は完全に理解してる訳じゃないよ」
「はぁ………恋でもなされているんですか?」
青春真っ只中である高校生の女子にそう聞かれてしまうと、流石の惺も立場のおかしさに噴き出しそうになっていた。
「…んーまあでも、してるよ。してるしてる。そりゃあまだ血気盛んとは言わないにせよ、元気な若者だし」
と言えば、惺は軽快に笑った。
「じゃあ、踏み込んだ質問をしますが、どんな恋を…」
「ははっ、これまた漠然とした質問だなぁ。うーん、どんな、とは恥ずかしくて言いにくいけど。1つだけなら教えてあげるよ」
惺は頭を掻きながら勿体振るようにそう言う。
「何ですか…?」
「実は俺、近々結婚するんだよね」
そう言いながら、惺は薬指に填めた指輪を自慢気に見せた。
「えええええええええっ?!」
その後___
「ねーねーきょー、実は俺、結婚することになりましたー」
「あーはいはい、おめで…って、嘘?!せいにぃ結婚するの?」
更にその後___
「やっほぉ、久しぶり妹くん。実は俺、結婚するんだよね〜」
「………マジ?」
熱も下がってきた京と妹の元から帰る際、二人宛…いや三人宛の招待状を惺は京に渡した。
波乱の結婚式が、始まる。
黒嫁編
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