六十二話 ページ21
そして、秋らしさが漂う9月下旬を迎えた。
そう……せいにぃの結婚式である。
慣れない華やかな衣装に身を包み、僕は妹と神崎さんと一緒に会場へ向かった。
会場に入ろうとした時に招待状の提示と名簿への記名を要求された。
僕と妹が先に記名を終え、その後に神崎さんが記名をした。
神崎という苗字まではすらすらとそのペンを動かしていたのだが、名前を書こうとしたところで一瞬ペンが止まる。
「う………もういいや」
そんなことを呟きながら殴り書きで名前を書き上げた。
そこに書かれた名前は「神崎 推理」であった。
「神崎推理…推理さんだってさ、兄」
「うんうん、病院でも書いてあった。ぴったりな名前ですよね本当」
「………そう言われたくないから今まで名乗ってなかったのになぁ…」
神崎さんは恥ずかしげに苦笑を浮かべながら、僕達兄妹を先導するように会場内へと足を踏み入れた。
中に入れば、幾つものテーブルと椅子がセットされており、テーブルの上には豪華な料理が並んでいた。
天井にはキラキラと輝くシャンデリアが規則正しくぶら下がっている。
床は触れば恐らくふかふかと心地よいであろう、幾何学的で複雑な模様の絨毯が敷かれていた。
その光景すべてが真新しく、新鮮で、僕に驚きと感動を与えたのだった。
そしてそれは、妹にも言えることだったようで、妹もその顔を燭台の蝋燭の火よりも明るく輝かせていた。
僕達兄妹がそんな反応を示すも、神崎さんは慣れていると言わんばかりに僕達を見ながら微笑んでいた。
すると、見慣れぬ人達の中に、僕の見知った顔がいることに気付く。
「慶さんだ!」
「ケイさん?」
僕の口から出てきた、聞き覚えのない名前に首をかしげる神崎さんに、僕が説明をしようとした時。
慶さんは此方に気付いたようで、此方に向かって歩いていることが確認できた。
「初めまして。惺の父の慶と申します」
そう言うと、行儀良く慶さんはお辞儀をした。
「あぁ、惺君のお父さんでしたか!初めまして。神崎と申します」
「神崎 推理……」
「だあぁ…言わないでよ、恥ずかしいんだってば…」
そんな他愛もない話を慶さんとしていると、ふと視線を逸らした先に話し合う二人のスタッフ思われる人がいるのに気付く。
その二人の会話に耳を凝らして聞いてみると、その会話内容は驚くべきものだった。
「…おい、どう説明する?」
「どうもこうも…奥さんが夫を拉致して立て籠ってるなんて、どう言えば良いんだよ……」
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