五十一話 ページ11
最初は自身も出血多量であったのだろうか、京は少々意識が朦朧とした状態で目が醒めた。
若干冴えてきたと思った頃、まず窓から外の景色を覗けば、広がっているのはガードレールが無く舗装すら不十分な細い道の上ではなかった。
もしもその位置にいれば聞こえる筈もない緩やかな下流の川の音。
舗装の完璧なコンクリートを走る車の、風を切る音。
それらが窓越しからもしっかり聞こえていた。
そして運転席を見れば、息も絶え絶えな父親の姿。
京はその姿を見て、ああ、殺せそうだな。
そう思った。
実に無情に、実に無気力に。
それは、母が殺されたから、その仇にだとか、そういう考えがあったかどうかは定かではないが。
まあ、恐らくそんなことは頭に無かったのだろう。
そこからはもう展開は早かった。
火事場の馬鹿力と言う訳ではないだろうが、6歳程度の華奢な体で何を用いたのか、京は父親を殺害し、更に骨と肉を解したのだった。
全身を強打していたことを考慮してもまだあり得ないような事実ではあるが、そこには何か因果なんかがあったりするのかもしれないし、無かったりするのかもしれないし。
その惨い、死体とも既に言えないような肉塊と骨を見ても、京は顔色一つ変えることはなかった。
ただ京は必死に、さながら図工の作品を作り上げるかのように無言で骨をかき集めていた。
それをどうしたのか、それは簡単なことだったろう。
埋めるには余りにも労力が要る。
ならば、その両手一杯に抱えた遺骸は、近場にあった川に棄てる以外ないだろう。
そうして、京は追悼する気も殆どないであろう表情で、父親の遺骸が流れていくのをずっと見送った。
そして、何事も無かったかのようにそそくさと車に戻り、助手席に座り、シートベルトを装着したのだった。
もうそれを走らせる人はいないと言うのに。
そして、京は車に揺られることもなくその意識を落とした。
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