【◇】ダメなオトナでも、いいですか？【御幸一也】

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ディスプレイには『倉持洋一』の文字。見覚えのあるその名前と、鳴り続けるコール音に戸惑っていると、御幸がかろうじて聞こえる声で「出て」というので、応答の文字をスライドする。


「……も、もしも」
「テメぇ御幸！！ 何回かけさせるつもりだっつーの！！」

「……えーっと…………」


　応答直後に響いてきた怒声に御幸と二人揃って苦笑する。恐る恐る見てみると倉持からの着信履歴は明け方からすごい数になっていた。


　私の声が聞こえたのか画面の向こうからは「あれ？」とか「おい、今の誰だ？」とか色々な人の声が聞こえてくる。これ、私が出たらいけないやつなんじゃ、と思って御幸に視線を向けるけど、彼は何も聞こえていないかのように車を進める。


「え、あの……誰すか」

「……すいません、水野Aです」

「あー水野か…………え、水野！？」


　なんで御幸と一緒にいるんだと言いたげな倉持になんて答えようかと迷う。高校時代に面識のある彼のことだから、下手に関係を持ったとかは言いにくい。


　何とか誤魔化せないか、と考えてみるけれど、いい案なんて出てこない。それならいっそ訊かれる前に自分から話を変えてしまえと思い、少し焦りながら口を開いた。


「ちょっと待ってて、今御幸に代わるから」


　御幸がコンビニに向かってウインカーを出したことを確認して、ホッと安堵の息を吐く。綺麗に一発で駐車した彼に電話を繋いだままの携帯を渡せす。


　倉持の後ろで何か話をしていた人たちは、恐らく野球部の人たち。聞いたことない声がしたし、倉持に敬語使ってる人もいたから、先輩後輩関係なく集まってるんだと思う。


　あれ、それじゃあ御幸がここにいるのってまずいんじゃ……と考えつつ電話が終わるのを待つ。話してる内容が聞こえないように意識を他のことに向けるのも、そろそろ限界だ。



「……ん、わかった。じゃあな」


　どうやら電話が終わったみたいで、「ここで下りようか？」と言おうとしたけれど、最寄りの駅までは送ってくれるらしい。

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