【◇】ダメなオトナでも、いいですか？【御幸一也】

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ケーキ屋の店内に立ち込める、クリームの甘い匂い。目の前でケーキを頬張る菜穂を見ながら、私は少し苦めのコーヒーを飲んだ。


「んで、今度は何よ？」


　フォークを動かす手を止めずに訊いてくる菜穂。今回もまた、御幸に対しての相談をしようと思って、呼び出してしまったのだ。


「まあ、……ざっくり言うと」


　今までの経緯を大雑把に話すと、菜穂は「なるほどね」と一言だけ呟いた。


　二つ目のケーキをぺろりと平らげた彼女は、ミルクティーを一口飲んで、私に対して口を開いた。


「あんたらしくていいと思うよ、あたしはね」

「……私らしい、って？」

「好きになってから付き合うって、すごいAらしい答えでしょ」


　誠実っていうか、真面目っていうか、と続けて言った菜穂の顔には、優しい柔らかな笑顔が浮かんでいて。


　何でそんな表情を……と思っていると、彼女は頬杖をついて、私の目を真っ直ぐ見ながら、「あたしはね」と話し始めた。


「心配だったのよ、あんたが」

「……え？」

「ナルミヤって人のことずっと引きずってて、その人の結婚が決まったってときから、あんまり元気なかったから」


　「でも今は生き生きした顔してるよ。吹っ切れましたって全面に出てる」なんて言葉に、そうなのかな、と思う。


　確かに成宮くんの結婚報告を受けたときは、すごくショックだったけど、式のあと御幸と色々あってからは、そんな感情は、ほとんどなかったから。


「早く応えてあげなよ、御幸くんに」

「……うん」

「よし、じゃあ早速だけどデートの約束取り付けよう」

「え！？」

「何驚いてんのよ。こういうのは積極的にならないと」


　じゃあまず行き先の候補を、と楽しそうに考え始める菜穂につられて、私もデートスポットを頭に浮かべた。

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