Distance makes the heart grow fonder 2

♯53 ページ8

6年前の事を思い出して聞いてみる

「あの頃は僕も当主と社長は同一人物が継ぐものだと思い込んでたからね でも正直なところ頻繁にパーティーに出かけて人脈を広げることを求められるのは苦手だから、喜んで他の人に任せるよ」

苦笑混じりの言葉の中に本心が溢れている
壮麗な屋敷が木々の間から見えてきて、じわじわと湧いてくる実感に鼓動が速くなっていくのを感じた

信じられないけど、太輔は俺といるために、俺に自分を選ばせるためにこれまでの慣例を覆し、新たな道を作ってしまったのだ

「宏光と将来的にも一緒にいたいと、再会した時からずっと考えていたことだったんだ その為にどうすればいいか考えていた時に、ヒントをくれたのが宏光だったんだよ」
「俺が…？」
「宏光と話をしてから、一人の人間が全てを背負う必要性はないんじゃないかと思えるようになり、【自分以外の人を信じて、向いてる人に任せる】という形を試してみて、その方が上手くいくと知った おかげで当主と社長を分ければいいという解決策に気づけたんだ」

まさか太輔の身体を心配して提案したことが、この先も太輔と一緒に居られること─自分を幸せに導く案になるとは思ってもみなかった

不思議な感情に戸惑っていると、とうとう屋敷の前、どっしりと大きな扉の前に到着した

「宏光の不安はまだ残ってる？」
答え次第で彼の世界ともう無縁ではいられなくなるけど迷いはなかった

たとえどんな困難が待ち受けていても太輔となら一緒に乗り越えれる

自分をこれだけ求めてくれる人から離れるなんてもう出来ない…俺の幸せと生きる喜びも、太輔と共にあるのだから

大きく呼吸をし、真っ直ぐ彼を見上げて
「いえ、貴方となら不安も怖くもありません」
「よし」

にっこりした太輔に抱きしめられ、胸の奥からわきあがってくる感情にうるむ瞳を瞬きで抑えていると
そっと頬を手の平で包まれ上を向かされる

「どうして泣くの」
「…貴方の元に帰れた事が幸せで…」
「よかった、僕もだよ」
美しい黒曜石の瞳に見とれているうちに、距離がなくなっていき、唇が重なった

後頭部と腰に回った手で支えられているせいで、優しいキスの快楽に休憩を入れる間もなく酔わされる
するとふわりと足が浮いた

太輔に抱き上げられたのだ
ゆっくりとキスをほどかれてうるんだ瞳を開けると、額にキスを落とされた

「目を閉じてていいよ 宏光は恥ずかしがり屋だから」
「……？」

どういう意味だろう

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