Distance makes the heart grow fonder 2

♯52 ページ7

「解決出来そうにないくらい難しく見える問題は案外見誤ってることもあるんだよ」
「え？」

すると考えてみようかと太輔は先生のような口調で質問してきた
「宏光が僕から離れないといけないと思ったのはどうして？ 一言でいってみて」
「えっと…俺が居ると太輔が藤ヶ谷家の当主になれないから」
「それのどこがいけないの？」
「えっだってよくないですよね？ ホテルの最高責任者である太輔には、藤ヶ谷家を背負っていかなければならない次期当主でもある訳で、周りの期待に応えないといけないし」

「確かに宏光の言うことは正しいよ 今まで僕は一族のために努力もしてきて、それなりに認められて副社長にもなれたし、ただ僕がホテルの親会社、つまり「Orient」の社長候補から外されなければこの問題は解決するんだよ」

「でもOrientのトップは藤ヶ谷家の当主がなるんですよね？」
「慣例的にはね 今までは有能な人物が、家督を継ぐのが理にかなってたからだよ でもそれだと1人の人物が両方引き受けるということだから大変だろ」

確かにOrientトップの仕事と藤ヶ谷家当主の役割の両立は大変だと思う
少し考えてはっとする

「ひょっとして当主と社長を分業にするってことですか？」
「そういうこと」
笑顔を浮かべ1つ頷き太輔が続ける

「藤ヶ谷家の当主の役割は、家の代表として社交の場に出て人脈を広げ、それをビジネスにフィールドバックさせるのがメインだ 渉外担当ってことだね 一方Orientの社長は実務担当で、一族のために会社を安定的に発展させる経営を望まれる 今までは1人の人物が引き受けてるのが当然だったけど、役割としては別物なんだ」

最初から当然のようにあるものを視点を変えてみることで、問題解決の糸口が見えてきたという事だ
今回太輔は当主と社長を分業にするという案を親族会議に提出して、無事に通してきたらしい

「当主と社長を分業にしてしまえば、宏光の懸念は解消されると思うんだけど」
にっこり笑顔で言われたけど、こんなに簡単に解決するなんてちょっと信じられない

「藤ヶ谷家の当主は渉外の得意な人材、Orientの社長は実務に1番長けた人材がそれぞれ継ぐことになるから、このままいけばOrientのトップは僕だね」

悪戯っぽく微笑み言い切る太輔に笑えばいいのか、驚けばいいのか

「因みに藤ヶ谷家の当主は友輔になると思うんだよ」
「…太輔はそれでいいんですか？」
「もちろん」
「でも…ご自分で藤ヶ谷家を継がれるおつもりでしたよね…」

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