Distance makes the heart grow fonder 2

♯49 ページ4

立ち上がった後も腕を掴んだままの彼が、無言で俺の服から土や草を払ってくれる
近くには飼い主に忠実なシェリ

とてもじゃないが逃げられそうにない

俯いていると太輔がそっと髪に触れた
「怪我はない？」

怒っていると思っていたら思いがけないくらい優しい声で、変わらない仕草
動揺しながらも僅かに頷いて、おずおずと長身を見上げた

「あの…どうしてこんなところに…」
「恋人を迎えに」
「！」

真顔で答えた「恋人」は明らかに俺の事だ
まだそう呼んでくれる事を嬉しく思う反面、どうしたらいいのかわからなくなる

「…手紙を読んで下さったんじゃないんですか？」
視線を逸らし問えば、さっきまで泣いて涙で濡れている俺の頬を指先で拭って、呆れたように嘆息した

「読んだよ、酷いものだったね」
「ご…ごめんなさ…」
「あんなに下手な嘘の手紙で、僕を騙せると思ったの？」

彼の「酷い」は別のところにかかる感想だった

「仕事で優遇して欲しくて僕の探していた【宏光】のふりをしていた人が、本館ホテルのテキスタイルはパーティーの前にCharles'Wainでほぼ決まってたと聞いて、あんなにほっとした顔を見せるわけないだろう 2人で一緒にいる時も、僕が働きすぎだと心配してくれることはあっても仕事内容を聞いて自分を売り込もうとしたことないしね」
「そ、それは…」

言い逃れをしようとしたが言葉が出てこない
そこへ更に太輔が続ける

「宏光は気づいてないのかもしれないけど、あの手紙は【宏光】のふりで僕を騙していたことが申し訳ないから別れたいとは書いてあったけど、僕のことが好きじゃないとは一言も書いてなかったよ つまり、偽物だろうと本物だろうと宏光が僕に見せていた気持ちに嘘はないということだ」

太輔に指摘され納得した

偽物が彼の探していた【宏光】じゃないとわかった時点で失望されると思っていたし、太輔を「好きじゃない」なんて心にもないことを嘘でも書くこと自体思いつかなかった

おろおろと瞳を伏せると、真剣な声が頭上から降ってきた

「いいかい、僕にとって1番大切なのは君が僕を愛してくれてるかどうかという事だ もし君が思い出の【宏光】じゃなかったとしても今はどうでもいいんだ 僕にとっての宏光は君しかいない」

熱烈な告白は嬉しいけどどうしたらいいのか…
俺の反応にふうと大きく息を吐き

「まだ逃げたい？どうしても僕と一緒に居たくないなら逃げればいいよ もう追いかけない」
「………っ」

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