Distance makes the heart grow fonder

♯11 ページ12

やっと鼓動が落ち着きその間に6年前の事を回顧していた俺の肩にぽんと手が触れびくつく

「ごめん やっと解放された 俺もう帰るけど北山どうする？」
社長に捕まってた山下とはここへ一緒のタクシーに乗って来ていた
帰るなら一緒にと思っているが、彼から逃げてきたのにこのまま帰るともう2度と会えないかと思うともう少し遠くからでも見ていたい気持ちになるが

「...うん、俺も帰るよ グラス返してくるわ」

そして近くにいたスタッフに渡し、社長へ帰る旨を伝えてると視線を感じ振り返れば彼がこっちを見ていた
しかしすぐ目線を外し、髪を七三にきっちりと分けたホテルスタッフに話しかけた
かなり真剣な顔付き
仕事のことかな…副社長だし、ホテルの責任者だもんね

その横顔をしっかり胸に刻み山下の待つ所へ

「お待たせ！この後山下は彼女と会うのか？」
「あぁ久しぶりにお互い時間が取れるし、明日は有給取ったからな」
「そっか」

二人してバンケットホールの出入口まで向かい大きな扉を目前にして、ワイングラスの並ぶトレイを手にしたスタッフに呼び止められた

「お飲み物のお代わりはいかがですか」

明らかに帰ろうとしてる客にそんなこと言うなんて、一流のホスピタリティで知られるホテルのスタッフらしくない

年の頃は40代くらいの見た目はベテランスタッフに見えるけど新人さんなんだろうか？
よく見るときっちり七三に分けたその髪型からさっき彼と話していたスタッフだと気付いた


少し困った笑みを浮かべ
「すいません もう帰りますので…」
「申し訳ございません！」

かなり勢いのある謝罪に目を丸くした時には、彼が持っていたグラスの中味が、俺の肩から胸元にかかり、スーツや白のワイシャツがボルドー色に染まり、裾からぽたぽたと雫が落ちていた

「本当に申し訳ございません つまづいてしまいました」
唖然としてる俺の手に大判のナフキンが差し出され、反射的に受け取ると素早い身のこなしで、バンケットホールの外へ誘導された

一瞬の出来事に困惑しながら山下も着いてきて
「大丈夫か？」
「あぁちょっとびっくりしたけど…」
山下の方へ振り返るとその背後、閉まりつつある扉の向こうでは、さっきの痕跡が数人のスタッフにより後始末してるのが見える
対処スピードが速く、近くにいた人以外は気付かないくらい

失態を犯したスタッフが別室へ案内してくれて、ボルドー色に染まったナフキンを引き取り
「上の者に報告して参ります」
と丁寧に頭を下げ出ていった

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