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「すみ、ません……国木田、先生……」
病院の寝台に横たわる彼女の頬に健康そうな桃色は差しておらず、苦しそうに青白い頬を引きつらせるように無理矢理笑みを浮かべる。
彼女は、難病を抱えていた。
誰にも明かさず隠していたと思うと、頼ってくれなかったという寂しさと気づけなかった悔しさが俺の全てを埋め尽くす。
そして、そろそろ限界が近づいていると言うことは、既に知っていた。
花束を花瓶に差し、寝台の傍らの丸椅子に腰掛ける。
すると、彼女は微笑みを浮かべた。
今にも消えてしまいそうなほど儚く綺麗な笑みに手を伸ばす。
震える唇で、彼女は言葉を紡ぐ。
「ねえ、先生、今でも、好きでいてくれていますか……?」
「……ああ」
彼女は俺が伸ばした手を弱々しく掴み、掠れた声でありがとう、と呟いた。
そして、今にも閉じられそうな瞳から幾度となく涙がこぼれ寝台を覆うシーツに染みを作る。
「あい、してる」
「……A?」
彼女はその美しい笑みをくしゃりと歪め、その涙の粒を堪えることなく惜しみ無く落とす。
そして、何度も愛の言葉を口にした。
「すき、すきです。
あ、あい、あい……して、下さい」
必死なその言葉に、心が締め付けられる。
今にも事切れそうな美しく儚い命にこれほど執着している自分がおろかしく思うと同時に、たまらなく愛しい気持ちにさいなまれた。
彼女の目から溢れる涙を掬い、その薄い唇に口付けを落とす。
彼女の病は感染性ではない。
けれども自身に、彼女を呪う病を接吻で移せたら、なんて願ってしまう。
舌を唇の割れ目に押し込んで、彼女の舌に絡める。
蕩けるような声を溢す彼女の口腔内は甘く、夢のような感覚に理性が奪われそうになってしまう。
それでも、消えてしまいそうな彼女の存在を証明するように、その唇に喰らいついた。
「せん、せ」
「愛している。
俺は、俺はずっと……!!」
俺の言葉を遮るように、彼女は泣き笑いを浮かべた。
そして、口を「ありがとう」と動かした。
儚く微笑む彼女の顔を見ていると、堪らなく苦しくなってしまう。
彼女は微笑んだまま、鮮やかな瞳を瞼の奥へと閉じ込めてしまった。
彼女はその日の内に亡くなってしまった。
それはそれは蒸し暑い、熱帯夜に。
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硝子屋(プロフ) - 猫また猫さん» 了承ありがとうございます。リクエストですね、少々お待ちください…… (2020年2月24日 23時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - すみません夢主ちゃんと社長は結婚していない設定でお願いします (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - 硝子屋さん» リクエスト失礼しつれいしますね!!福沢社長で子どもを預かる話をリクエストしたいです社長と夢主ちゃんは結婚している設定で (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
猫 - あ、全然混浴でなくても大丈夫です!無理をさせてしまいすみませんでした (2020年2月24日 15時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
硝子屋(プロフ) - 乱歩信者さん» リクありがとうございます!少々お待ちください…… (2020年2月20日 21時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:硝子屋+ソーダ | 作者ホームページ:
作成日時:2018年1月25日 6時