【文豪ストレイドッグス】ぎゅー と ちゅー で 君と 会話【短編集】

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彼女はしばらくして、火葬されることになった。
葬式会場、棺の中で眠る彼女は、白菊ではなく沢山の向日葵に囲まれていた。
今にも目を覚ましそうで、けれども絶対にありえないとわかりきっている現実のもどかしさに、苦しめられた。

さようなら、などと別れを口にする気はなかった。
それを告げてしまえば、彼女の死を認めてしまうようで、それが嫌で。
向日葵を棺に差し込んで、それを見送ることしかできなかった。
不思議と、涙は出なかった。
教師という立場がそうさせたのかもしれない。

葬式が終わったあと、宛もなくふらふらと歩いた。
心の中に、ぽっかりと穴が空いたようだった。

斜陽の中、無意識のうちに訪れたのは、高台にある小さな広場だった。
町全体を見下ろすこの場所には、かつて彼女と訪れたことがあった。
それは、空の澄み渡る夏晴れの日だった。
あの日、彼女はここで。


『私、卒業したら先生の花嫁になります』


そう言って、彼女は俺にお揃いの指環をくれた。
逆じゃないか、と指摘すれば、彼女は可笑しそうに笑いながら、逆でも良いんです、と、そう言って。


『ねえ、先生。
愛してくださいね』
「……っ、ぅ……く、ぅう……」


＿＿＿頬が、冷たい。

約束を誓うように、口付けを、


『私も、ずっと愛していますから』

「……っ、……っあ、う、あぁ……っ……」


＿＿＿嗚呼、どうして、俺は、


彼女は口付けを俺の唇に落として、額と額をくっ付けて、そうしてはにかんだ。


＿＿＿どうしてもっと、愛してやれなかっただろう!!



涙が目から溢れた。
彼女のその顔が、全てが、たまらなく愛おしい。
彼女に会いたい。
今、どれだけ無様でも構わない。
彼女に会わせてくれればそれで良いのに。


涙が枯れた頃、満天の星空が頭上を覆っていた。
きっと酷い顔だろう。
彼女は俺を見て笑うだろうか。

それでも良い。
それでも良いから、今、彼女が目の前で笑ってくれたら、どれだけ俺は幸せだろう。

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