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「芥川さん!」
「……Aか」


やっと芥川さんを見つけ、その背に追い付く。はあ、と肩で息を整える。
昨晩、必死に考えた。それでも分からなかったなら、本人に当たるしかない。
残念ながら、私には素早く回転する頭なんて与えられなかったのだから。

芥川さんを見据え、背を伸ばし、声高に宣言する。


「私、戦えます。お役に立てます!」


愚図かもしれない、鈍間かもしれない。お役に立てる、なんてそれこそ口先だけかもしれない。

それでも。


「もしかしたら直ぐに死んでしまうかも知れません。だとしても、ほんの少しは貢献できると思います。
だからどうか、私、」


言葉を紡ぎ続けようとして、それ以上言うな、と言わんばかりに芥川さんの手に口を塞がれる。
驚いて、息が詰まりそうになった。
芥川さんの手は、酷く冷たかった。

口を塞がれたまま、ぐいぐいと人目を避けるように隅に連れていかれる。やがて入り込んだ細い通路に、壁を背に押し付けられる。


「んぐ、」
「……僕は恐れたのだ」


芥川さんは突然に話し始める。驚いて見ていると、芥川さんの手が口から離れていった。
は、と浅く酸素を取り込む。


「戦闘員は怪我を負い、時に命を落とす。お前は屹度直ぐに死ぬだろう」


芥川さんは、そこでやっと私の目を見る。それは初めて見る、酷く優しい柔らかい目____。


「僕が求むるは只一つ、Aの生きる世界のみ。その為に、お前を死地より遠ざけたかった」


芥川さんは私の頬に手を伸ばす。頬に触れて、労るように少し撫でる。今日、芥川さんにぶたれた方。
小さく、すまなかった、と声が聞こえた。

芥川さんの手は依然酷く冷たい。それなのに、触れられた頬はじんわりと優しい熱が灯っていくようで、泣きそうになる。


「……それでも私は、戦いたいです」
「そうか」
「駄目ですか」


冷たくて細い指先が、頬と目尻を撫でて、髪をすく。芥川さんは私の髪を一房掬い、私の耳にかけた。
触れたところから、其処が熱くなっていく。

芥川さんは、いつもより柔らかい声色で答えてくれる。


「構わぬ。ただ、傍にいろ」
「……は、い……」


そう答えて、ぎゅ、と目を瞑る。涙がぽたぽたと溢れた。

それを拭うその人の手つきは酷く優しくて、そこで初めて、私は憧れと思っていたそれの正体を悟る。




2019/9/25 硝子屋

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硝子屋(プロフ) - 猫また猫さん» 了承ありがとうございます。リクエストですね、少々お待ちください…… (2020年2月24日 23時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - すみません夢主ちゃんと社長は結婚していない設定でお願いします (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - 硝子屋さん» リクエスト失礼しつれいしますね!!福沢社長で子どもを預かる話をリクエストしたいです社長と夢主ちゃんは結婚している設定で (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
- あ、全然混浴でなくても大丈夫です!無理をさせてしまいすみませんでした (2020年2月24日 15時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
硝子屋(プロフ) - 乱歩信者さん» リクありがとうございます!少々お待ちください…… (2020年2月20日 21時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:硝子屋+ソーダ | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年1月25日 6時

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