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▼.不格好なワルツ ページ24

「っ、」
「何度言えば分かる、愚図が」


芥川さんに払われた頬がじんじんと痛い。鋭い熱と不甲斐なさに涙が出そうになるのを、唇を噛んで堪える。
全部全部、私が弱いのが悪いんだ。

惨めにうずくまって、ああ、マフィアの癖に、なんて情けない。芥川さんが怒るのも、きっと仕方がない。


「す、ぅう、すみません……ごめん、なさい……」


身体中が痛い。それでも私が声を絞り出すと、芥川さんはため息をつく。深いため息に、一層情けなくなる。

期待なんて初めからされてなかった。
知識も技術も才能も無い、だから敢えて厳しい人のところに送られただけだったと思う。

だとしても、近くで見る芥川さんの異能は強靭で、憧れた。だから、この人に師事できるのが嬉しかったのに……。

ふと、芥川さんはしゃがみこんで私と視線を合わせ、薄い唇で冷たく言葉を紡ぐ。


「お前はもう戦力として必要ない」
「……え、」


途端に体から力が抜け、呆然と芥川さんを見つめ返す。芥川さんはそれ以上何も言わず、行ってしまった。

ぺたん、と座り込んで、床を見つめる。

……ああ、そうだよな。

私には芥川さんみたいなずば抜けた戦闘の才能がある訳でも、樋口さんみたいに芥川さんの支援ができる訳でもない。
必要とされる理由がない。

ため息をつくと、つん、と鼻の奥が痛くなった。
ぐす、と鼻をすすっていると。


「A、お疲れ様」
「……樋口、さん」


ぶたれた頬に、冷たい缶珈琲が当てられる。それを差し出した樋口さんは、優しく微笑みながら“大丈夫?”と少し微笑んだ。


「……はい。
ありがとう、ございます……」
「ええ」


無様に座り込んだ私の隣に座った樋口さんは、自分の珈琲を開けて口をつける。

……背が高くて足が長くて顔が綺麗で芥川さんと戦闘も出来て……良いなぁ……。

思わずじっと見ていると、樋口さんは“何?”といぶかしげに眉を潜めた。
思わず、さっと目を逸らす。


「ご、御免なさい」
「良いけど……」


樋口さんはそう言うと、呆れたように笑って、ぽんぽん、と私の頭を撫でてくれる。


「……先輩はAのことを認めていますよ」
「え?」


樋口さんはすっくと立ち上がり、空になった缶を手に、それでは、と去ってしまう。

……認めてる? 芥川さんが、私を?

まさか、そんなことある訳がない。
でなければ戦力外にされない筈だ。

きゅ、と握り直した冷たかった珈琲は、いつの間にか温くなってしまっていた。

-→←▼.温度も糖度も控えめで。



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硝子屋(プロフ) - 猫また猫さん» 了承ありがとうございます。リクエストですね、少々お待ちください…… (2020年2月24日 23時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - すみません夢主ちゃんと社長は結婚していない設定でお願いします (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - 硝子屋さん» リクエスト失礼しつれいしますね!!福沢社長で子どもを預かる話をリクエストしたいです社長と夢主ちゃんは結婚している設定で (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
- あ、全然混浴でなくても大丈夫です!無理をさせてしまいすみませんでした (2020年2月24日 15時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
硝子屋(プロフ) - 乱歩信者さん» リクありがとうございます!少々お待ちください…… (2020年2月20日 21時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:硝子屋+ソーダ | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年1月25日 6時

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