87話 ページ41
波乱の料理を終え、なんとかお帰りいただいた時、私は汗びっしょりで「よ、よかった」と言った。いやマジで。
「お疲れ様やんなぁ、ま、なんとかなってよかったわぁ」とソールさんは気楽に言ってポン、と私の頭を撫でた。次いで、周りのメイドさんたちからも、「よくやったわ」とか「危うくみんな死ぬとこだった」とか「よかったら料理教えるわよ」とか、称賛の声が上がる。
和やかになった空気にホッとして、改めてソールさんが作ってくれた正規のオムレツを食べようとした時だった。
ガチャン!!
という、何かが割れる音が聞こえてきた。方向的に、ぶるーくさんの私室。にわかに部屋の空気がひりつく。ソールさんが険しい顔をして、「お嬢様、」と呟いてそちらへと走った。
お嬢様?と思いながら、何があったのかどうしても気になって後に続く。音の先は案の定ぶるーくさんの私室で、割れたのは恐らく彼の昼食を乗せていたのであろう皿だった。_____ぐちゃぐちゃになってカーペットに落ちて、跡形もなかったが。
世界から音が無くなってしまったのではないか、と錯覚しそうなくらい、部屋は静まりかえっていた。部屋の中にいる数名のメイドや、リリーさんですら凍ったように動かない。
皆の視線の先にいるのは、2人の人間。1人は、ガタガタと震えながら跪いているメイドで、もう1人は無言で無表情のままそのメイドの首筋に剣の切先を向ける大柄な男性。この国の幹部、ぶるーくさん。
一体何が、と思って、目についたのはひっくり返されてぐちゃぐちゃになった食事だった。それを見て、よく見て_______
理解した。
しかし、多分この部屋の中で理解できたのは私と、そしてぶるーくさんだけだろう。現に、リリーさんがハッとした様子で、慌てて口を開いた。
「ぶるーく様、彼女に、何か不手際が」
そこで彼女は言葉を切る。鋭い視線が彼女を射抜いていた。ソールさんが静かに首を振る。悔しそうな顔をして、リリーさんが黙った。……優しいんだな、彼女。でも、これはもう手遅れだ。
止めようと思えば止めることもできた。マリーちゃんの時みたいに。
けど、私は止めることはしなかった。
一閃。
綺麗な太刀筋だった。彼女は多分、痛みすら感じなかっただろう。
……命が消える瞬間、誰のことを呼んだのだろうか。考えても答えはもうこの世にない。
_______静かに目を閉じた。
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すみれ - 続編おめでとうございます!この作品とても好きです! (2022年10月23日 21時) (レス) @page2 id: a70cb7c9e5 (このIDを非表示/違反報告)
すみれいん(プロフ) - あの、ちょいちょき面白くてクスッと笑ってしまう所がありとても好きなお話です。これから続きを読んできます! (2022年7月19日 21時) (レス) @page50 id: a715f4eb82 (このIDを非表示/違反報告)
まほ(プロフ) - めっちゃこの小説が大好きで、この小説を読むでいる時間が一番幸せです(^-^)これからもよろしくお願いします (2021年9月16日 16時) (レス) id: dab527b906 (このIDを非表示/違反報告)
サンセットマリン - スカ一さん» はい、大丈夫です。よろしくお願いいたします。 (2021年9月16日 6時) (レス) id: 58697e3d5e (このIDを非表示/違反報告)
スカ一(プロフ) - サンセットマリンさん» おはようございます、お世話になっております。ご了承頂きありがとうございます。では、今回の件はこれにて終了とさせて頂きたく思います。また、作者名、作品名を伏せて事の経緯の説明を当方の作品内でさせて頂いてもよろしいでしょうか? (2021年9月16日 6時) (レス) id: c3f5308968 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サンセットマリン | 作成日時:2021年9月7日 18時