86話 ページ40
ギギ、と振り返れば頭の上にはさっきも会ったぶるーくさんがいて、私と目を合わせるとにこりと笑って手を振った。
そして、"私の上で"何やら紙とペンを取り出し、サラサラと書き付けてソールさんに渡す。それに目を通して、あら、と言って私を見た。
「A、ご指名やで。今アタシが作ったやつ、同じようにやってみぃ」
「……へぇ?」
「ぶるーく様はAが作ったやつを召し上がりたいんやって。材料は切ったやつがあるから、使ってええよ」
「ちょ……ま、待ってください、えっと、大変無礼ですが承知で言います、私は本当に料理できませんよ!?ぶるーく様のお腹が壊れかねません!!」
思わず素でそう言えば、周りはお前何言ってんだとひゅっと息を呑む。
しかし、等の本人はいいの、と言うように笑って私に卵を手渡してきた。____間違いなく正気じゃない。
しかし、周りのお前さっさと動け、とでも言いたげな鋭い視線に晒されて、私は恐る恐る調理台へ。手にした卵を、ボウルに割り入れる。そして_______
次はどうするんでしたっけ、とパニックになってソールさんの方を見れば、彼女は困った顔をしていて、ぶるーくさんは爆笑していた。
つまり、最初から肯定を間違えていた。
♢ ♢ ♢
紆余曲折あってどうにか完成させたソレは、もはや"ソレ"としか形容できない物体で、私は申し訳ありませんと頭を下げることしかできなかった。
まさか、花嫁修行しといた方がいいんじゃないかという周囲の言葉を全て無視して訓練に明け暮れていた弊害がこんなタイミングで出るなんて。
項垂れる私を尻目に、ぶるーくさんはとんでもない行動に出た。つまり、ソレをひょい、と手でつまみ上げて、ぱくっと口に入れたのだ。にわかに私の顔から血の気が引く。
「_____ダメです吐き出してください死にかねません!!」
もう正直自分でも何を口走っているのかわからない。脳裏に浮かんだのは、私の料理を食べて倒れた自国でも最強の面々の姿だった。万が一あんなことになれば、暗殺者と勘違いされて処刑されかねない。
_______しかし、心配を他所に彼は倒れることはなかった。ただ、ものすごく微妙な顔をして、サラサラと文字を書く。突きつけられたそれには、『意外と味は悪くない』という言葉。
「えっ?……そ、そうですか、よかったです……」
この人もしかして、喋れなくなると同時に味覚も失ったのかもしれないと思ったが、言わなかった。
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すみれ - 続編おめでとうございます!この作品とても好きです! (2022年10月23日 21時) (レス) @page2 id: a70cb7c9e5 (このIDを非表示/違反報告)
すみれいん(プロフ) - あの、ちょいちょき面白くてクスッと笑ってしまう所がありとても好きなお話です。これから続きを読んできます! (2022年7月19日 21時) (レス) @page50 id: a715f4eb82 (このIDを非表示/違反報告)
まほ(プロフ) - めっちゃこの小説が大好きで、この小説を読むでいる時間が一番幸せです(^-^)これからもよろしくお願いします (2021年9月16日 16時) (レス) id: dab527b906 (このIDを非表示/違反報告)
サンセットマリン - スカ一さん» はい、大丈夫です。よろしくお願いいたします。 (2021年9月16日 6時) (レス) id: 58697e3d5e (このIDを非表示/違反報告)
スカ一(プロフ) - サンセットマリンさん» おはようございます、お世話になっております。ご了承頂きありがとうございます。では、今回の件はこれにて終了とさせて頂きたく思います。また、作者名、作品名を伏せて事の経緯の説明を当方の作品内でさせて頂いてもよろしいでしょうか? (2021年9月16日 6時) (レス) id: c3f5308968 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サンセットマリン | 作成日時:2021年9月7日 18時