泣き顔マニア ２

７９ 北山side ページ30

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「Aにさ……、振られた」


「え？」


「まぁ最初っから振られてるようなもんだけど、正式に」


「………まじ？」





信じらんない、って顔して
だし巻き玉子を食べてた口を止めて俺をガン見してくる。




「まじまじ、大まじ」


「でも最近いい感じでしたよね？
あ、俺のせい？」


「そうだよ、ばーか」


「そっか、そうだ、ごめん……」


「あ、いや、んな謝んなよ」





途端にシュンとするから
慌てて身を乗り出し否定した。

生意気に言い返してくるかと思いきや
珍しく素直に謝んだもん。





「玉が遥と別れなくても
結局結果なんて同じだったよ、
Aの気持ちはずっとお前にあんだから」





俺の力不足、ってビールを煽ると
玉は納得出来なさそうな顔をしながら、





「でもAってさ、ちょっとした催眠状態にあったりしない？」


「へ？」




急なそのワードについていけなくて
ビールを片手に掲げたままな俺に
玉はそのまま話を続けた。




「ずっと俺の事好きなわけじゃん？
って自分で言うのもあれだけど。
だからさ、もうその気持ちに縛られてるっていうか……」


「………どゆこと？」


「他の人に気持ちが移っても
私は裕太のことが好きなんだ！って思い込んじゃってるっていうか」



………んなバカなことあるか？



「さすがに自分の気持ちくらい気付…………、
かねぇかな、あいつだったら」


「でしょ？
思い込み激しいとこあるし」





そうか…………って、いやいや、違ぇだろ。

玉がそう思いたいだけなんじゃねぇか、それは。




「まぁでも仮にそうだとしても
俺にその催眠は解けねぇもん。
やるだけやったし、これ以上仕掛けたら抱いちまう」


「そっか、やっちゃってなかったんだ」


「へぇ、手出しても良かった？」


「いや！だめでしょっ！」


「はは、そう思うんなら良かった」





途端に慌て出す玉に
一応Aのこと大事には思ってんだなって。

複雑な気持ちだけど……、




「とりあえずAのことよろしくな。
お前がAをどうするかは分かんねぇけど、傷付けたら許さねぇぞ」


「…………はい、」


「おし、素直」





いっぱい食え、って更に料理を勧めながら
目の奥に込み上げてくる熱いものをぐっと堪えた。





「お前さえAに気持ち持ってくれたら
Aは絶対幸せになれっから」





今はまだちょっと辛いけど
いつかは好きな子の幸せを寝返るような男になりてぇな━━。

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