キラハグ

３４ ページ34

.



「でも俺は仲間内で飲むとそうなるかもしんねぇけど
女と二人っきりとかだとさすがにそうはならねんだな〜」


「そうなんですか？」


「そうなんですよ〜」








グビグビ飲んでる目の前の先生を見つめながら
私も缶に口をつけた。








「じゃあ、どうなるんですか？」









先生にとって私が"女"という種類に分類されてるのか不明だけど
一応この状況は、傍から見れば男と女が二人で飲んでるわけですし…？









「あまーくなる。」


「あまーく……？」









コトン…、ってテーブルに置かれたビール缶は
もう空っぽになってる音がした。

その音に、なぜか私は
強く自分の缶を握りしめて。









.







「いい加減に、うちの中でも名前で呼んでくんねぇかな？」









って、
私のビールを持つ手に不意に触れてくるから
力を入れてたはずなのに、いとも簡単にその缶を奪われた。









「え……っ？」



「先生じゃなくてさ、ちゃんと呼んでほしいんすけど」









そして、さっきまで飲んでた私のビールをぐいっと飲み干し
またカランッ…、と空っぽの缶がテーブルに置かれる独特の音。









.







「……わか、りました…」


「ん、よし。あと敬語もいいから」








満足気に、でも少し照れを含んだ笑顔。

どうしたらいいのか分からないくらい
知れば知るほど、ドキドキと胸を高まらせてしまう。

それを誤魔化すように、







「ひろ……？」


「ん？」


「ひろ？」


「なんだよ」


「ふふ、ひろ〜」


「だからなんだよ」








何度も何度も名前を呼んでみた。


"ひろ"なんて呼び慣れてしまったら
益々この生活を手放したくなくなりそうで怖いのに
"ひろ"と普通に呼べる関係になるのが
それ以上に嬉しかった。









「もう一本飲むか？」


「うんっ」


「よし、やっと元気出てきたな」


「え？」








ビールを取りに席を立ちながらそう言うひろ。









「公園行った帰りあたりから元気なかったろ？
無理に外出なんてさせて疲れさせたかなー、とか思ってさ」


「え？それは…違うよ！
公園すごく楽しかったし！」


「そ？」


「うん…。」









平成を装おってたつもりだったけど
想像以上に元奥さんの存在に動揺してたんだ。

３５→←３３

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す