嘘つきなキス

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夢を……見てる？




いつもなら私を腕枕したまま
朝までぐっすり眠っているひろが


珍しく苦しそうに顔を歪ませて
うなされてる。


起こした方がいいのかな、とひろの頬にそっと触れると




「あっ……行くな、行か……ない、で……
あい、り……」




あいり……？




それって…女の子の名前…、




ズキン、と胸が痛んだ。




そういえば、ひろとこれだけ身体を重ねて
色んな話をしてても
私は大してひろの過去を知らない。

ひろがあまり過去のことを訊かれたくなさそうなせいもあるんだけど。




「あいり……」




やだ、どうしよう

何だかその女の子の名前がすごく気になって
ひろを起こさないようにそっとベッドを抜け出すと
ソファーに座って携帯を開いた。




そう言えばひろのこと
１回もネットで調べたことってなかった。



打ち上げに参加したりしてもしてるから
"KISS"のメンバーが今と違ってたり
バーテンダーの横尾さんがメンバーにいたこともあるのは知ったけど
でも昔の"KISS"のことで知ってることって言ったらその程度で。





KISS バンド あいり





メジャーじゃないから出てこないかもしれないな〜、なんて思いながら
軽い気持ちで入力してみたら。





「う、そっ………！」




思わず声が出て、慌てて口を押さえた。




うそ…


嘘………




驚きとショックで
心臓が破裂しちゃうんじゃないかってくらいバクバクしたまま
震える手で携帯の電源を落とした。






だから、





だからひろは女の子と適当に遊ぶだけになっちゃったの……？

女にうんざりして、幻滅して
もう誰にも本気にならないって思ったの……？





「酷い………」





ネットに書かれていたことが真実なら
こんな酷い話ない。


デビューだって決まってたのに
メンバーである自分の婚約者と仲間が駆け落ち同然に脱退してしまうなんて、そんなこと。



いっぺんに夢も愛する人も失ったひろが
その後どんな気持ちで、どんな思いで、歌いながら生きてきたんだろうと思ったら
自然に涙が出ていた。




「うう……ひど……いよ、ゔゔ…っ、ひっ、く」







「こらこらこら、ネット情報を鵜呑みにすんな」



え？



びっくりして振り返ると
いつから起きてたのか、
ベッドの上のひろが困ったような顔をして
私を手招きしていた。

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