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潮の香りが鼻を突き、慣れない匂いに顔を顰めた。
俺は、俺の兄が死んだ場所にいた。
彼奴が最後に見た景色をみたかった。
彼奴を探したかった。
如何してこんな所に来たのか知りたかった。
足場は悪いし日陰で、苔は生えているし滑る。特別綺麗と言う事もない。何で。
口には出さず、心の中で悪態をついた。
……そんな此処も、青が良く似合うあの兄が居ればもっと美しく見えたのかもしれなかった。
兄はよくふらふらと出掛けては意味のわからない言葉を並べたが、俺は出来ることならば外へは出たくないと思っていた。
何故かって、それは。
暑い日差しは俺を照らして晒し者にするし、俺の心の暗い部分、照らされることでそれがまた色濃くなる気がして。それに、世の中の嫌なところも見える。歩けば歩くほど蹴っ躓くし、トラブルが起こる確率も高くなる。兄弟がいれば別ではあるが、一人で外になど出ても、いいことなどない。
人生とて此れ等と同じ事だ。
人一倍自分嫌いな俺は、自分を卑下することでしか生きていけなかった。
故に、俺は、あの無鉄砲で頭空っぽで自信家でナルシストで馬鹿で阿呆で、とても、とても優しいあの兄が、羨ましかったのだ
___最後まで、俺は彼奴を理解出来なかったのだ。
いつも暴力を奮った。
いつも罵詈雑言を吐いた。
彼奴は気が付かないと思った。
後悔など意味が無いのだと思い知った。
あの兄はきっともう目覚める事は無いのだろうと何の根拠もなく予感して居た。
「……カラ松、」
呼んでももう相手の声が返ってくる事はない。
「カラ松、からまつ、からま、…」
呼ぶ声は波の音に掻き消され遠くまで響くことは無かった。
それでもいいと思った。
溢れてくるこれは、俺が外に吐き出していいものでは、ない。
___彼奴が意識を落としたここで、彼奴を呼び続けて、いつか彼奴が帰って来る事を祈る事が俺の贖罪になると信じていた。
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作者名:琉唯 | 作成日時:2017年5月27日 4時