信仰144 ページ25
「君のハッキング能力は、むしろ逃亡に役に立つと思わないかい?連れて行く方が勝率が上がる。けれど私は君を連れて行かなかった。なんでか分かるかい?」
考えられる訳もなくただ首を横に振った。
すると太宰さんは穏やかに笑って言った。
「君が好きだったから」
刹那ぼろぼろと涙が頬を伝った。
嗚咽が喉から零れることは無かったが、ただ涙腺が壊れたように次から次へと雫が零れていく。
「嗚呼、泣かないでくれ」と言って太宰さんは私の涙を止めるように頬へ指を落とした。
けれど自分でも何故泣いているか分からないような涙がそれで
「……ごめんね。私は君を泣かせてばかりだ」
情けないなぁ、なんて言って太宰さんは尚も私の涙を止めるように指で何度も拭った。
「あの時も、君の泣き顔が見たくなくて自ら勝率を下げたんだ。……結局私の見ていない所で泣かせるだけだったけど、やっぱりあれで正解だったのかもしれない」
汚いね、と零す太宰さんの顔から笑みは消えていた
「今では全部云い訳に聞こえるかもしれないけど、私の云いたかったことはそれだけさ。
そんなことは無い。
長年胸に張られていた霧が晴れたような、そんな気分だった。
けれどそれを敢えて言わず、私はやっと止まりかけた涙を自分で拭って「太宰さんは……」と切り出した。
「太宰さんは、……なんで私なんか好きになったんですか」
すると太宰さんは目を丸くしてから笑った。
「うーん……なんでだろうねぇ」
私の頬から離した手でティースプーンを持ち、珈琲に弧を描くようにしてかき混ぜる。
その波際を見ながら太宰さんは口を再び割った。
「……Aちゃんてね、器用に見えて結構不器用でしょ」
予想とは随分離れた指摘に少しキョトンとする。
「書類纏める時とか、グリップでとめようとした時に必ず紙の端とかちょっと折っていつも少しぐしゃってなった書類を提出してた」
「う……」
「けどね」と言って太宰さんは思い出したように笑った。
「そういう所が好きだった。髪を纏める時に限ってヘアゴムが手首に無かったりとか、ペンを落としたりしても気づかなかったとか、そういうのが降り積もって気付いたら好きになってた」
好き、と零す太宰さんは
どこか、悲しく見えた
1336人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おれんじ(プロフ) - とてもとても面白かったです!なんか感動しちゃって泣いちゃいました笑素敵な作品をありがとうございます! (2021年4月3日 22時) (レス) id: 0eb527936d (このIDを非表示/違反報告)
チキン - すごいっす!双黒が凄いかっこよく書かれてました。!でも太宰さんENDも見たい気持ちも少しあったかも……。これからも応援してます★ (2019年6月24日 22時) (レス) id: 4977555463 (このIDを非表示/違反報告)
存在理由【レゾンデートル】 - そしてこの作品とても面白かったです!また新作も作ってくれると嬉しいな〜なんて・・・。。これからも頑張ってください!!(◇∀◇) (2018年5月3日 23時) (レス) id: 2916bffe8d (このIDを非表示/違反報告)
存在理由【レゾンデートル】 - 初コメントでこんなこと言うのもあれですが、ハイキューの個人指導塾のやつ、修正おわってなくていいのでパスワード解除していただけないでしょうか・・・?無理にとは言いません!!そ (2018年5月3日 23時) (レス) id: 2916bffe8d (このIDを非表示/違反報告)
yun(プロフ) - 初コメ失礼します!とても素敵な作品でとても楽しく読ませて頂きました!続編楽しみにしています! (2018年3月5日 15時) (レス) id: 568876bb4d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:無気力感 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年5月6日 16時