3話 甘く苦く ページ4
「……」
あれからしばらく、無一郎は私の屋敷に来なかった。
……いや、それが普通なのかもしれない。
ただ私がこんなに意識しちゃってるから、余計恋しく想うわけで……
「よし」
気分転換をしよう。
甘味処に行く。
たまにはこういうのも大事だよね、たらふく食べよう。
先に謝っておくね、ごめんね御館様。
それから私は、屋敷から一番近い甘味処へ赴いた。
「いらっしゃい」
店の人の明るい声に、そして店内の賑やかな様子に、心が高ぶった。
どこの席にしようかな……と順に空いてる席を目で居っていくと、見覚えのある横顔。
隊服に、浅葱がかった髪。
こんなところで会えるなんて……
運命!?と一人でろまんを妄想して密かに舞い上があっていた。
声をかけようかな……、なんて話しかけようか、だ〜れだ、って目隠しする??
「……?」
ふと、隣の人の存在に気づいた。
桃と黄緑の、派手な髪色の女性。
同じように隊服を着ていることから、鬼殺隊だと伺える。
そっと耳を傾けてみると、派手な髪色の女性は声がはつらつとしていて、それは容易に聞き取れた。
「無一郎くん優しいわね、きゅんきゅんしちゃうわ!!
でも私の方がいっぱい食べたし、こうやって付き合ってもらってるんだから、
私に奢らせて!」
“きゅんきゅんしちゃう”その言葉がやけに目立って聞こえて、
それから周りの音が一切無くなった感覚になり、
まるで周囲から私だけが遮断されたみたいな、そんな感じ。
……なに、なにあの女。
なんで無一郎もあんな女と。
別に恋仲なわけでもないし、私が無一郎を牽制する権利はない、ないって分かってるのに、
頭のどこかでは知ってるはずなのに、
それでも私の渦巻く黒い感情は止まることを知らない。
どんっ
誰かにぶつかった。
でもそんなことどうでもいいくらい、私はおかしかった。
……なにが、きゅんきゅんしちゃう、よ。
私はまだ話したこともない相手に毒づいた。
「……い、おい!!なんとか言えや!!」
「……っ、」
気づいたら男に胸ぐらを掴まれてた。
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作者名:*つむり* | 作成日時:2020年11月15日 1時