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元々神の治癒能力は高い。気長足姫尊も次の日には自分の力で立ち上がれるようになった。ひとりでに開いた寝室の扉を一瞥して、白澤は口を開いた。
「おはよう、痛みは?」
「もう治りました」
「そう、よかった。朝ごはんはお粥だよ」
その言葉とともに湯気の立っているお椀がカウンターに置かれた。彼女は白澤の顔を見て、それから無言で席に着いた。両手を合わせて「いただきます」と声に出す。
「偉いねぇ。僕、ちゃんと挨拶できる子好きだよ」
「ありがとうございます」
スプーンでお椀の中身を掬い、口に運ぼうとしたところで、気長足姫尊は先ほどからずっと感じる視線の方に眼をやった。
「……なにか?」
「ん〜〜? 見てるだけだよ」
「そんなに見られると食べにくいのですが」
「ごめんごめん」
肘をついて満面の笑みを浮かべた白澤は彼女の言葉にパッと両手を上げた。だが数秒もしないうちに同じ体勢に戻り、じっと彼女を眺める。
気長足姫尊は数口食べたところでもう一度手を止め、困った顔をした。
「あの……」
「ああ、可愛くってつい」
「……」
「気にしないで。自分が作った料理を食べてるところ見るの好きなんだ」
「はぁ」
釈然としない顔で気長足姫尊は食事を再開した。それを見つめ続ける白澤の後頭部を桃太郎が軽くはたく。
「いたっ」
「彼女困ってるでしょうが。仕事してください」
「ちぇっ」
白澤は桃太郎に胡乱な目を向けた後、気長足姫尊に笑いかけた。
「食べ終わったら桃タローくんの手伝いをしてほしいんだ。治療と薬の代金代わりにね」
「わかりました」
「じゃあ、僕も仕事しよっと」
白澤は立ち上がると、背後の棚からいくつかの薬草を取り出した。空の鉢の中にそれらを入れ、兎に磨り潰すように指示を出す。そのまま何事もなかったかのように出て行こうとした白澤に、桃太郎が慌てて声をかけた。
「どこ行くんですか!?」
「材料集め〜。二人で店番よろしくね」
白澤はひらひらと手を振って姿を消した。粥を食べ終わった気長足姫尊が手を合わせてごちそうさまでしたと呟き、大きなため息を吐いた桃太郎に「何をすればいいですか」と問いかけた。
「そうですね……。まずは店内の掃除をお願いしてもいいですか?」
「わかりました」
「掃除道具はそこの棚の中に」
桃太郎の言葉に気長足姫尊は頷くと、カウンターの上を片付け始めた。
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作者名:鵺 | 作成日時:2020年5月4日 2時