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日本人らしく前髪を一律に切りそろえ、髪は武人なれど女性らしくまっすぐ艶やかに伸ばされている。切れ長の瞳だけは冷酷を燃やしたような昏い赤を宿しており、じっと白澤を見つめていた。
「ん、なんだい? 女の子のお願いなら僕はなんだって聞くよ」
「―――神を殺す薬は作れるでしょうか」
軽薄に動いていた白澤の口が一瞬固まり、再びぎこちない弧を描いた。
「これまた突然だねぇ。どうして?」
「私はただの一介の武人です。祀られ、神になる資格など一つもありません。彼らに頼られるのが酷く申し訳ないのです」
神が人の生死に関わることは殆どないが、彼女の場合は稀に彼らの願いを受けて現世に身を現し、加勢することすらある。それで今回のように傷を負うことは厭わない。死なない自分が誰かを殺す運命だった矢を幾本受けることになっても、それは構わなかった。
けれど。
「怖いのです。自分は刀一本で戦う方法しか知りません。馬に乗って進むことしかできません。これからさきの大和の国で起こる戦はきっと変わります。私は何一つ彼らの、人の子の役に立てないでしょう」
そして、それは自分にとって存在意義の消滅を意味する。
「せめて戦の中で死のうと思いました。それが叶わないと知った日には腹も斬りました。それでも自分の手では死ねなかったのです」
彼女は苦しげに顔を歪めた。涙が双眸からあふれ出し、頬を伝う。
「もう一度問います。神を殺す薬は、作れますか」
震えた声で小さく呟かれた気長足姫尊の言葉に白澤は静かに目を瞑った。暫しの逡巡のあとに、困り顔で力なさげに笑った。
「……作れるよ。材料集めは面倒くさいけどね。だから泣かないで」
遠慮がちに伸ばされた白澤の手が彼女の涙を拭った。想像以上に触れられた手が暖かくて気長足姫尊は驚いたように彼を見た。それに彼は優しく微笑むと立ち上がり、空になったグラスが乗った盆を持って部屋を出た。
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作者名:鵺 | 作成日時:2020年5月4日 2時