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「ありがとうございます」
「うん。女の子は笑顔が可愛いよ」
白澤はそう言って徐に小瓶の栓を外し、一気に中身を煽った。気長足姫尊が目を見開き、なにか言おうとしかけた唇に自身のそれを押し当てる。驚いた彼女が逃げるのを諫めるように後頭部へ手を回した。
「ん、んぅ……!?」
強引に歯と歯の間に舌をねじ込み、液体を流し込むと、至近距離で柘榴色が泣きそうに細められた。彼女の喉が上下して、毒が体内へと入っていく。全てを彼女に注いだ白澤は、唇と唇が触れた状態で掠れた声で言った。
「君の次の生が幸せであるように、小さな幸せを掴めるように、笑っていられるように。吉兆を司る神獣である僕からのありったけの気持ちだよ」
薬を飲み込んだ瞬間から淡い金の光が彼女を末端から包んでいく。神として一時的に輪廻を外れている彼女は一度すべてを輪廻の中に取り込まれるのだ。彼女が震える手で白澤の袖を掴んだ。
「短い時間でしたが、とても、とても幸せでした」
笑顔を浮かべた彼女の頬を伝った雫を白澤は何も言わずに指で拭った。
「ありがとうございました。またいつか―――」
最後まで聞くことのできなかった彼女の言葉に、白澤は小さく「うん。またね」と呟いて、指の濡れた感触を握りしめた。
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作者名:鵺 | 作成日時:2020年5月4日 2時