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感謝の言葉を述べた烏天狗たちを見送り、極楽満月の扉が閉まったところで白澤が口を開いた。手は休めず、完成した薬を瓶に注いでいく。
「いい烏だったね」
「そうですね。―――約束はできませんでしたが」
「来世で行ってあげればいいよ」
気長足姫尊はその言葉に無言で頷いた。瓶に栓をし終えた白澤がカウンターから出てきて、椅子に座っている彼女の隣に立った。
「それで、これは最終確認なんだけど。やっぱりこの薬は必要？」
柘榴色の瞳がじっと彼の手の中の小瓶を見つめた。透明よりさらに透き通っているような妙な印象を与えてくる瓶中の液体は、少量の小さな気泡を孕みながらじっと彼女のことを見つめ返している。ややあって、彼女は白澤の方を見据えた。
「……此処に来てから、初めて知ったことが沢山あります」
きっと神になる前、自分が戦っていた時から見落としていたことを彼や彼の周りの人が教えてくれた。自分にも花が似合うと、大切にしてくれる誰かがいると。戦で役に立てなくなる日が来たとしても、自分の存在意義までなくなるわけではない、と教えられた気がする。武神であることに囚われずにもっと周りを見ていれば、或いは違う未来があったかもしれない。でも。
「でも、一度折れてしまった心で彼らの期待に応えることはやっぱりできないのです。恐怖もまだありますが、それ以上に此れは武神としての矜持の問題です。それに……」
「それに？」
続きを促した白澤に、気長足姫尊は首を振った。
「いいえ。何もありません」
「そっか。でもちゃんと考えた結果なら、僕はそれでいいと思うよ」
白澤は、彼女の手を取った。ちょっとついてきて、という言葉に彼女が立ち上がる。
「どこに……？」
「最期にとっておきの場所を見せたくて。行くよ！」
そう言って、白澤は彼女の返事も待たずに歩き出した。
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作者名：鵺 | 作成日時：2020年5月4日 2時
