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小さい瓶を窓から差し込む明かりに翳す。まだ顔を出していない朝陽の、それでも存在を主張するように地平線から覗く酷く眩しい光が瓶の中身を照らした。白澤が小瓶を少し揺らすと、中に入った角の欠片がその動きに呼応した。他の動物の角から採取するものとさして変わりない外見だが、これの持ちうる価値を自分はよく知っている。
「とはいえ、何に使えるかは僕も知らないんだよなぁ」
 鬼神という存在は鬼灯のほかにも存在するし、鬼灯より長い時を鬼神として生きる者がいることも知識として知っている。白澤とて実際に会ったことがあるわけではないが、それらの存在が鬼神の角の使い道を切り開いてきたのだ。
 だが、自分はこの世界に一人しか存在しない。鳳凰や麒麟と違って番もいない。自分の角を削ったことも、ましてやその用途を探ろうとしたことなんて一度もなかった。
「アイツにそれを探ってもらうのは気に食わないけどなぁ」
「何が気に食わないんですか」
「げっ……!?」
 独り言に応えが返ってきて、白澤は後ろを振り返った。店の扉を開けて立っている人影は黒い和服に身を包み、いつもと同じ不機嫌そうな顔で白澤のことを睨みつけている。白澤は大声で怒鳴ろうとしたのを咄嗟に抑えて、低い声を出した。
「……何でいるんだよ」
「夜に桃源郷で亡霊騒ぎがあったでしょう。それの事情を聴きにくるついでに例のものを持って来たんですよ」
「ああいう騒ぎの管轄は警察だろ? お前が来る必要ないじゃん」
「これだから平和ボケ爺は。警察の管轄とはいえ亡霊を逃がしたのは此方の不手際。此処には用事もありましたし、詫びもかねて捜査協力を申し込んだんですよ」
「あっそ。だからってこんな早朝に来なくても」
「獄卒舐めないでください。午前中はこの時間しか空いてなかったんですよ」
 そういって、鬼灯は部屋の奥を見やった。本来白澤が寝ているはずの寝室の扉は閉まっており、静まり返っている。
「―――意外ですね。貴方が何もせず座ったままで一晩を過ごすなんて。てっきり花街で遊んでると思ってました。探したんですよ」
「何してんだよ。―――たまには考え事ぐらいするよ」
 白澤は翳した小瓶を見つめた。今更誰かを殺す薬を作ることにも、取引とはいえ気に食わない相手に貴重なものを渡すことにも迷いはない。それが彼女の幸せのためになるという自分の判断だ。だが。
「無事に転生したからといって、次の生が幸せになるかどうかはわからないからさ」

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設定タグ:鬼灯の冷徹 , 白澤 , 鬼徹   
作品ジャンル:恋愛
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作者名: | 作成日時:2020年5月4日 2時

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