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「お断りします」
「僕もお前に頼むなんて願い下げなんだけど、こればっかりはお前にしか頼めないんだ」
「たとえ貴方の土下座を見れたとしてもそれだけは容認できません」
「土下座するつもりはハナからないし、今回ばかりは譲るつもりもないね」
 鬼灯は小さくため息をついた。鬼神の角の用途は、鬼灯にも一つだけ思い当たるものがある。神を輪廻の輪へ戻す薬だ。
「……わかってますよ。本気で貰う心算がないのなら依頼してきた本人を私のところに寄越すでしょう」
 今までそうしてきたように。
「うん。僕じゃ彼らを止められないからね」
 博愛主義と呼ばれる彼の神獣が、本気で誰かを愛したことはある意味で一度もない。古来より「神獣」と呼ばれるものに潜在的に備わっている人を愛する機能に従っているだけと言った方が正しい。あまりに永い刻を経た白澤にとって人の一生など瞬きのうちに過ぎるものであり、あまりに経験しすぎた誰かとの別れは最早悲しむものでも受け止めるものでもなく、流していくものである。
故に、誰かの死にたいという願いを止めるのも潜在的機能に倣ったあくまで形式的なものであり、本気でそれを止める心を白澤は持ち合わせていない。せいぜいが本気で止めてくれそうな誰かに押し付けるくらいだ。
「でも、お前なら止めてくれる……というか、今まで嫌ですの一点張りだったでしょ」
「当り前じゃないですか。削るの痛そうですし。そもそも此方にメリットがない」
「挙句の果て、『神が甘えてるんじゃありません!』とか言ったり」
「私の物真似をしたつもりなら全然似てませんよ」
「誰がするか」
「―――で、誰なんですか? 死にたいと言ってるのは」
 一瞬、間が空いてから、白澤が答えた。
「気長足姫尊だよ」
「……あぁ」
 得心したように頷いた鬼灯は、酷く聡い。恐らく彼女がどういう神でなぜ死にたがっているかまである程度わかったのだろう。
「甘え……と言うにはこのご時世は確かに酷ですね」
 江戸時代が終わり、明治が始まった現世では、大きな諍いが立て続けに起こっている。刀や矢は銃や爆弾にとって代わり、敵は最早日本国内に存在しない。たとえそれは神にとって瞬きのうちの出来事だとしても。
「ただの優しい女の子が耐えられるものじゃないんだろうね。」

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設定タグ:鬼灯の冷徹 , 白澤 , 鬼徹   
作品ジャンル:恋愛
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作者名: | 作成日時:2020年5月4日 2時

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