おたがいさま(草加雅人) ページ9
週末のショッピングモールは、家族連れなど多くの人で賑わっていた。
「これなんか似合うんじゃないかな」
草加くんが私にすすめたのは、小花柄で落ち着いた色の上品なワンピースだった。
「かわいい……!けど、似合うかなぁ」
「似合うよ、Aなら」
真っ直ぐに私を見つめ、さらりと言う。私は恥ずかしさに耐えきれず、目を逸らし曖昧に返事をする。
視界の端で草加くんが小さく笑うと、「他の店も見ようか」と言って服を元の場所に戻した。
「う、うん!」
気持ちを切り替えるようにして、その店を出た。
*
嗚呼、私って情けない。
嫌な予感が的中してしまった。
「……どうした?」
「えっ!?な、何が?」
どうしよう、足が痛い。
今日の服にはどうしてもこのヒールの靴を合わせたくて、無理して履いてきたのが悪かった。
ダラダラと冷や汗を流しながら、笑って誤魔化す。
そんな私を察してか、草加くんは「少し休憩にしようか」と言って近くのカフェを指さした。
カフェに入って注文を済ませると、私は開口一番に「ごめんなさい」と謝った。彼は少し困ったように笑う。
「一体何に謝っているのかな」
「だって私、全然彼女らしいことできてない……」
「君の言う彼女らしいことって、例えば?」
「それは……相手をドキドキさせたりとか、喜ぶことをしたりとか……」
「だったら謝るのは俺の方だ」
驚いてぱっと顔を上げると、彼は申し訳なさそうに眉を下げて微笑んでいる。
「言葉にしなくてごめん。俺は今日……君の姿を見たときからずっと、心をかき乱されてばかりだ。まあ、気づかれないよう平静を装っていたけどね」
そう言って彼は自嘲気味に笑う。
「それに」
一瞬、私の足元にちらりと視線を移す。
「俺に気を遣わせないよう……一人で我慢してしまうAの優しさに、密かに喜んでる」
滔々と語る彼の心の内に、嬉しさが込み上げると同時に、耳まで熱くなる。
「照れる君も可愛い」
「……恥ずかしいよ」
「言わないとまた不安にさせるだろ?だから早く慣れてもらわないと」
そう言って「好きだよ」「愛してる」などと次々と甘い言葉を吐く。
「君の恋人が俺でよかった」
その言葉だけはどこか、心の奥からこぼれ落ちたように私の耳に残った。
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mtnz(プロフ) - namelessさん» 感想ありがとうございます!!微妙な関係性、いいですよね……。閲覧感謝です!🙏また新たな良き関係性を書きたいと思います! (4月4日 17時) (レス) id: 2225662d3f (このIDを非表示/違反報告)
nameless - 草加夢の関係性とても好きです……………😭😭😭めちゃくちゃたすかりました…………😭😭😭😭😭😭 (4月4日 3時) (レス) id: 61c846afc2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mtnz | 作成日時:2024年2月18日 1時