夢短編集【仮面ライダー】

恋の代償（相川始） ページ5

今思えば、余計な一言だった。

「剣崎くんっていい人ですね。明るくて、素直で。その上、仕事でライダーをしてるなんて」

そのとき。
向かいの席に座る始さんが、大きな音を立てて勢い良くグラスをテーブルに置いた。突然のことに驚きながら恐る恐る表情を伺うが、いつもと変わったところはない。

「……もしかして、怒ってます？」
「いや」
「で、でも……」
「あまりあいつのことは聞きたくない。それ以上言うな」
「はーい……」

なんだ、やっぱり怒ってるじゃないか。と、喉まで出かかった言葉を飲み込む。
とはいえこのまま素直に折れるのも悔しくて、少し意地悪を言ってみる。

「もしかして、ヤキモチですか？」
「だったらなんだ」

キッパリとした強い口調だった。
まさかの即答に、意表を突かれ言葉に詰まる。

「人間は厄介だな。些細なことに一喜一憂する……心が休まることがない」

そう言って自嘲的な笑みを浮かべる。
どうやら彼の内面は、すっかり人間と変わらないらしい。
と言っても私からすれば、彼の心は最初から人間そのものだったけれど……。そう思うとなんだか可笑しくて、思わず笑みがこぼれる。

「確かに、面倒かもしれませんね」
「……ああ」

彼は視線を上げて私を見ると、僅かに眉を顰め、どこか切ない表情で微笑んだ。

「お前がそうやって傍で笑うたび、俺の中の何かが掻き乱される。どうすればこの苦しみから逃れられるんだろうな」

ーそれはきっと、逃れられない恋の病。

なだめて惑わせて（草加雅人）→←美女と野獣否定論（草加雅人）

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す