純潔(草加雅人) ページ15
君を俺だけのものにしたい。
どんな手を使っても。
週末の朝、彼女はまだ二階で寝ていた。
やりたくもないクリーニング業を手伝っていると、ふと居間で飼っている金魚が目につく。
彼女が欲しいと言った一匹の赤い金魚。狭い金魚鉢の中で、こちらのことなど意にも介さず自由に泳いでいる。
その様子が今日はなぜか無性に癪に障る。腹の底からふつふつと煮え滾るような怒りが込み上げてくる。
魔が差した。
水と一匹が入った金魚鉢を手にすると、シンクの三角コーナーに中身を全て流し入れた。金魚は生ごみの中で、びちびちと小さな身体を動かしている。生臭い。ひどく不快な気持ちになる。
三角コーナーを手にごみ箱を開けると、生ごみと一緒にその中へ金魚を捨てた。その赤色はごみに紛れ、もう見えなくなった。
気がつくと階段から足音がして、彼女が起きてくる。
「おはよう。草加くん」
愛しい彼女の名前を呼んで「おはよう」と返す。
「あれ、金魚は?」
来店した子どもが金魚鉢を見て、どうしても欲しいと言うからあげてしまったと嘘をつく。
「そっか……残念だけど、それなら仕方ないよね」
そう言って彼女は少し寂しげに笑うと、「ありがとう。私の代わりに」と礼を言う。きっと心優しい彼女なら、本当にそうするのだろう。
少し遅い朝食をとろうとする彼女に、コーヒーを淹れてやる。コーヒーの良い香りが部屋に広がった。
「いただきます」
彼女は手を合わせて食べ始める。向かいに座り、その姿を眺める。
「草加くん、上手だね。目玉焼き」
「そうかな」
「私じゃこんなに綺麗に作れないよ」
彼女は申し訳なさそうな笑顔で「食べるのがもったいないくらい」と言って、ひかえめに箸の先で黄身を突く。黄色い中身がとろりと流れた。
「そんなことないさ。君なら、きっと上手くできる」
そう言うと「……じゃあ、今度作ってみようかな」と、はにかむように微笑む。その表情に自然と口元が緩んだ。
コーヒーが入った彼女の赤いマグカップからは、いつまでも湯気が上り続けるような気がした。
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mtnz(プロフ) - namelessさん» 感想ありがとうございます!!微妙な関係性、いいですよね……。閲覧感謝です!🙏また新たな良き関係性を書きたいと思います! (4月4日 17時) (レス) id: 2225662d3f (このIDを非表示/違反報告)
nameless - 草加夢の関係性とても好きです……………😭😭😭めちゃくちゃたすかりました…………😭😭😭😭😭😭 (4月4日 3時) (レス) id: 61c846afc2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mtnz | 作成日時:2024年2月18日 1時