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不思議と私たちの周りに人はいなかった。
まだ誰かしらはいてもいい時間なのに、ここだけ別の次元かのようにガランとしていた。
「……ここでAを見た時、すごく桜が似合う子やなって思った。桜に負けないくらい可愛らしい子やなって……
裏切られて、悲しくて…写真撮る気力なんてなかった、桜なんて見たくないって思ってた…でも…撮りたいって思った。撮れなかったけど…そもそも勝手に人のこと撮るなんてあかんのやけど…
一年間その姿が忘れられんかった。だから、同じ学部でゼミも一緒って知った時はめちゃくちゃ嬉しかった…」
切ない表情で私を見つめる康二くん。
水分をまとったその瞳は悲しくなるほどに美しい。
「話してみればものすんごくいい子で…一緒にいて楽しくて……笑った顔めちゃめちゃ可愛いねん…やっぱり残したくなんねん……」
何で彼は、こんな時までも綺麗なんだろうか。
「好きになってもうたんよ……」
桜よりも、ずっと綺麗。
「そんな人を…俺から色んなもん奪った桜と一緒の画角になんて収めたくない……一緒に残してしまったらまた俺から離れていく気がするんや……
でも…やっぱり……
Aは…桜が似合うやんなぁ…?」
そんな彼の
春を塗り替えてあげたいと思った。
「……康二くん」
そっと震える手を包む。
もう十分あたたかいはずなのに、彼の手は冷たかった。
「離れないよ…?」
彼の中で春はあたたかいものではないんだと。
自分を凍えさせるほどの季節なんだと。
「今年も、来年も、この先ずっと。康二くんと一緒に桜を見たい。康二くんが撮った桜が見たい。
ずっと思ってた、二年前に撮らなかった桜の写真をいつか見てみたいって。
……康二くんがカメラを構えてる姿、凄く好きなの。でも構えてなくても好き。どんな康二くんとも一緒にいたいと思った、色んな表情を見たいと思った」
本当の春を、あたたかい春を。
そして綺麗な桜を見せてあげたい。
「これからの春はずっと一緒、約束」
このシャッターを切る大事な手を
あたためてあげたい。
「……ほんと?」
「ほんと」
「いなくならん…?」
「ならないよ、一緒にいよ?」
彼は、震える手でカメラを持った。
「A……」
そして一歩下がり、ファインダーを覗く。
「好き……大好きや…っ」
カシャリと、シャッター音が鳴った。
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スノウ(プロフ) - いえいえ!全然大丈夫ですよ!そうなんですね!教えてくださりありがとうございます! (3月6日 23時) (レス) id: e7424004bc (このIDを非表示/違反報告)
ぽぷら(プロフ) - スノウさん» スノウ様。ここをに顔を出さない日が続いておりまして、コメントに気づくのが遅くなってしまいすみません💦非公開作品に関しては再公開等は全て未定です。申し訳ないのですがご了承いただければと思います🙇♀️ (3月3日 21時) (レス) id: 0e689a64ff (このIDを非表示/違反報告)
スノウ(プロフ) - このお話には関係ないのですが、見えない世界の恋と魔法ってもう見れないですか?😢💦 (1月23日 0時) (レス) id: e7424004bc (このIDを非表示/違反報告)
ぽぷら(プロフ) - takkimakkiさん» takkimakki様。お読みいただきありがとうございました。春はやはり少し寂しい季節でもありますよね、私もいつか素敵な気持ちで春を迎えたいなぁと思います。素敵な日々が過ごせるように願っております。ありがとうございました(^^) (2023年4月16日 18時) (レス) id: 0e689a64ff (このIDを非表示/違反報告)
ぽぷら(プロフ) - みぃ。さん» みぃ。様。お読みいただきありがとうございました。少しお返しが遅れてしまい、もう早いところは散ってる所もあるみたいですね。いい写真は撮れましたでしょうか?素敵な春になるように願っております(^^)ありがとうございました! (2023年4月16日 18時) (レス) id: 0e689a64ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぽぷら | 作成日時:2023年3月24日 3時