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びっくりした。声が出なかった。
まさか、彼があの日のことを覚えているなんて。
「覚えとらん?」
「え…」
「そうよなぁ、覚えてるわけないやんなぁ」
私の頭から手を離した康二くん。
悲しそうな顔が見えて、それがあの日と重なって。
「待って、」
咄嗟に、下ろした腕を掴む。
私を見た彼と目を合わせる。
2年前、2年生になったばかりの頃。こうやって桜を見上げていた。その時に現れたカメラを持ったあの人。
「ごめんなさい、邪魔ですよね。撮りますか?」
その人が、目を見開いた。
「え…あ……」
「何で撮らなかったの…?」
そっと腕を離す。彼の瞳は揺れていた。
「退けるから、撮って?」
「え…?」
「康二くんが撮った桜が見たい。二年前撮れなかったなら、今撮って」
少し彼から離れる。後ずさるように、彼の視界からいなくなろうとした。
なのに、それを彼が許さなくて。
「ち、ちがうねん!」
「え…」
「違う…俺は桜が撮りたかったんじゃない……」
今度は彼が、私の腕を掴んでいた。
「桜を見てる…Aが撮りたかった……」
そして、また辛そうに顔を歪めた。
「自然と手が動いてた…気づいたらファインダー覗いてた……でも…怖かってん……
桜を写真に残すと、夏も秋も冬も春の事を思い出してしまいそうで怖かった……撮りたいって思ったのに…撮りたくなかった……綺麗なのに…残したかったのに……」
私の腕を掴んでいた手が震え出し、ぽとっと落ちるように離れていった。手だけじゃなく、肩も声も震えていた。
「桜が咲いたら…親友が遠くに引っ越してもうた…優しかったお婆ちゃんが亡くなってもうた……信頼してた大人が俺を嘲笑った…
大好きだった人に…裏切られた……!」
見た事ないくらいに悲しそうな姿。
こんな桜の景色には似つかわしくない苦しそうな叫び。
思わず自分も泣きそうになって、手が震えていた。
「桜は俺から大切な人を奪っていく…だから…嫌いなんよ……桜が咲く春は嫌いなんよ……でも…でもなぁ…
綺麗なんよ…毎年……憎たらしいほどに……」
今もなお、ひらひらと桜は舞い落ちて。
少し遠くではそれを綺麗だと笑い、楽しそうに写真をとる人がいる。
ただ、康二くんの周りに落ちるそれは私でさえも全てが何かの凶器に思えて。
彼の今までの苦しみの数を表しているようだった。
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スノウ(プロフ) - いえいえ!全然大丈夫ですよ!そうなんですね!教えてくださりありがとうございます! (3月6日 23時) (レス) id: e7424004bc (このIDを非表示/違反報告)
ぽぷら(プロフ) - スノウさん» スノウ様。ここをに顔を出さない日が続いておりまして、コメントに気づくのが遅くなってしまいすみません💦非公開作品に関しては再公開等は全て未定です。申し訳ないのですがご了承いただければと思います🙇♀️ (3月3日 21時) (レス) id: 0e689a64ff (このIDを非表示/違反報告)
スノウ(プロフ) - このお話には関係ないのですが、見えない世界の恋と魔法ってもう見れないですか?😢💦 (1月23日 0時) (レス) id: e7424004bc (このIDを非表示/違反報告)
ぽぷら(プロフ) - takkimakkiさん» takkimakki様。お読みいただきありがとうございました。春はやはり少し寂しい季節でもありますよね、私もいつか素敵な気持ちで春を迎えたいなぁと思います。素敵な日々が過ごせるように願っております。ありがとうございました(^^) (2023年4月16日 18時) (レス) id: 0e689a64ff (このIDを非表示/違反報告)
ぽぷら(プロフ) - みぃ。さん» みぃ。様。お読みいただきありがとうございました。少しお返しが遅れてしまい、もう早いところは散ってる所もあるみたいですね。いい写真は撮れましたでしょうか?素敵な春になるように願っております(^^)ありがとうございました! (2023年4月16日 18時) (レス) id: 0e689a64ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぽぷら | 作成日時:2023年3月24日 3時