▼制御不能 羽風薫 ページ7
彼女の事が好きだった｡
一度視界に入れてしまえば､彼女のことしか見えない｡彼女の事しか考えられなくなる｡
頭の中とか､心がぐるぐるぐるぐる回りに回って訳が分からなくなって｡何を話そう｡どうしたら彼女と自然に話せるか｡俺はどうやって女の子と話をしていたっけ｡いや､もしかしたら彼女は俺が話しかけてくることなんて望んでいないのかも｡どうしたらいい｡
どうしたらいつも通りの羽風薫で話せる｡
そんな不安はあっという間に俺の思考を奪ってしまって､頭の中が真っ白の空っぽになる｡
そもそも､俺は少なくても一人の女の子に固執することなんて無い筈なのに｡本気の恋をして､悩んで苦しんで､一人悶々とするなんて性に合わないのに｡なんてイライラするんだろう｡暑苦しいのは嫌いだ｡めんどくさいのも嫌いだ｡振り回されるのも､一人で勝手に嬉しくなったり悲しくなったりするのも｡そんなのは､俺じゃない筈だ｡可愛い女の子と遊んで､持ちつ持たれつの関係を続けていれば､それで満足だったのに｡
あぁ､本当に｡
彼女に恋をして､俺はおかしい｡
『___羽風』
彼女の声だけで､胸がざわつく｡あの形の良い唇が､俺の名を呼ぶ為に動いた事実に､飛び上がりそうな程嬉しくなる｡どくどくどくどくと､有り得ないくらい心臓が一生懸命働いて､その鼓動が耳元で聞こえるくらい大きな音で鳴る｡
しんどい｡苦しい｡
頭が真っ白になって､脳が勝手に考えるのを放棄した｡
｢……っ､｣
あの柔い手が､腕に触れる｡それだけで､全身が沸騰したみたいに熱くなって､止まらない｡頭のてっぺんから爪先まで､どぐりと大きく震えて｡
気がつけば､振り払った｡
腕が､焦げそうで｡溶けてしまいそうで｡このまま触れていれば､彼女に何かをしでかしてしまいそうで｡
｢…なぁに勝手に触ってんの､ ……っ！？｣
口から､勝手に滑り落ちた｡はっきりと､拒絶する言葉｡
頭が働かなくて､動かなくて｡
こんな､思ってもないこと｡止められなくて｡振り払った後､言った後に後悔した｡今にも泣き出しそうな､そんな彼女の傷ついた顔を見た｡
こんなことするのは､初めてじゃない｡なんて接したらいいか分からなくて､いつも冷たい態度をとって｡傷つけるのは､初めてじゃない｡初めてじゃなかったけど､こんなにも泣きそうな顔をさせたことは､なかったのに｡
ごめん､と掠れた声を背に､逃げるように歩いた｡
ごめん｡…ごめん｡謝るのは俺の方｡
傷つけてごめん｡振り払ってごめん｡
こんな俺なんか､嫌われてるって分かってる｡
早く､君を諦めるから｡
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春永詩帆(プロフ) - 最高です、素晴らしい作品をありがとうございます。 (2021年12月31日 23時) (
レス) @page28 id: 46695abdda (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - 藍原春陽さん» 申し訳ありません！只今修正致しました。不甲斐なくもたった今気付きました……。ご指摘ありがとうございます！ (2020年11月28日 23時) (レス) id: 9398c4b575 (このIDを非表示/違反報告)
藍原春陽(プロフ) - 全部の話がきらきらしていてとても好きです。ひとつだけ、本文中で凪砂が凪紗になっていることが気になりました。できれば訂正お願いします。これからも頑張ってください。 (2020年11月28日 0時) (レス) id: b2c9d88620 (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - のんさん» ありがとうございます！嬉しいです (2020年8月15日 12時) (レス) id: 3919641d26 (このIDを非表示/違反報告)
のん - 応援してます (2020年5月30日 1時) (レス) id: b1f19877ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：素敵帽子 | 作成日時：2019年8月18日 12時
