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▼その背中に2つの恋を 斎宮宗 ページ40

ただ、漠然と。彼女は僕のことが好きなのだろうな、と。そんなことを思っていたような気がする。そう思ってしまう程に、僕達は一緒に居すぎたのだろうか。僕らしくもない浅ましい妄想をしてしまう程に、僕は彼女に惚れてしまったのだろうか。零に、あのような陳腐な言葉で挑発されたくらいで、美しくもなく彼に詰めよろうとしてしまう程、渡したくないと思っていたのだろうか。確かに、恋だと思うのだ。確かに、愛だと思うのだ。ただ、僕自身驚いてしまうくらいに、この気持ちは酷く重い。甘いと思っていたそれを、彼女に伝えて押し付けて、その結果彼女を押し潰して壊してしまわないかと、薄らと不安に駆られてしまう。

ライブは成功したのに、背中を丸めた彼女が気に入らなかった。美しいその背を、申し訳なさげに曲げるその姿に、叱りつけたい気持ちになった。いつも気丈で、怖いもの知らずな君なのに。そんなふうに、沈んでいるのは似合わないのだよ。話しかければ、安心した表情をする彼女に愛しいと思った。丸まった背筋を悪戯に撫で上げれば、顔を赤くする彼女に恋をしていると言ってしまいそうになった。零に間に割り込まれた時、言い表せないくらい喉が震えた。
あぁ僕は。彼女を愛している。


「急な事で、すまなかった」

『ううん。…宗なら構わない』


零と仲睦まじく話す彼女の腕を引き寄せて、腰を抱いて逃げ出した。二人を見ていられなかった。あのままにしておけば、零に奪われてしまうと思った。渡せなかった。だから、強引に連れ去った。


「僕は、君と零が笑い合うことに良い気分ではない」

『うん?』


ずっと、伝えてしまおうとは思っていたのだよ。
僕の気持ち全てを吐露してしまって、君を僕に縛り付けようと。でも、今までのあの関係も、僕にとって存外楽しいものであったから。


『どうして?』

「…君を、好いているからね」


僕は、君と気持ちを共有していると思っていた。僕が愛していることを、伝わっているとばかり。己が恥ずかしい。所詮、伝えなければ理解出来ない。言わなければ、彼女の気持ちを手に取れない。その証拠に、彼女は驚いているし、僕も彼女の気持ちを隅々まで把握をしていなかった。


『うそ』

「僕がそんな愚かしき業を背負ったりなどするものか」


ほら、知らなかった。
僕の言葉に瞳を潤ませる彼女の瞳がこんなにも綺麗な事。僕の言葉に幸せそうに微笑む彼女がこんなにも美しい事。知らなかった。触れられなかった。今の、今まで。



僕は、君と恋をするよ。
僕の背中に任された、もう一人分の情熱的な恋情すら背負って。

ATTENTION→←▼その背中に2つの恋を 斎宮宗



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春永詩帆(プロフ) - 最高です、素晴らしい作品をありがとうございます。 (2021年12月31日 23時) (レス) @page28 id: 46695abdda (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - 藍原春陽さん» 申し訳ありません!只今修正致しました。不甲斐なくもたった今気付きました……。ご指摘ありがとうございます! (2020年11月28日 23時) (レス) id: 9398c4b575 (このIDを非表示/違反報告)
藍原春陽(プロフ) - 全部の話がきらきらしていてとても好きです。ひとつだけ、本文中で凪砂が凪紗になっていることが気になりました。できれば訂正お願いします。これからも頑張ってください。 (2020年11月28日 0時) (レス) id: b2c9d88620 (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - のんさん» ありがとうございます!嬉しいです (2020年8月15日 12時) (レス) id: 3919641d26 (このIDを非表示/違反報告)
のん - 応援してます (2020年5月30日 1時) (レス) id: b1f19877ba (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:素敵帽子 | 作成日時:2019年8月18日 12時

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