▼そんな君を知りたくなかった 七種茨 ページ19
いつも俺の欲しい言葉をくれる愛しい彼女｡身勝手な我儘でさえ文句も何も言わずに聞いてくれる彼女｡俺を安心させる柔らかい笑顔で笑う彼女｡そんな彼女が今､泣いている｡深い群青色の瞳から､暖かくて綺麗な雫を溢して｡そのせいで瞳は濡れて､彼女の虹彩が透けて見えるんじゃないかと言う程に､群青色は光っていた｡
｢…泣かないで下さい､A｣
最愛の彼女を泣かせてしまったのに､頭の悪い俺の心の中は罪悪感よりも達成感のようなもので満たされていた｡何故なら俺は｡ずっと､彼女の取り乱した姿が見たかったから｡俺のせいでぐちゃぐちゃに泣き叫ぶ表情が見たかった｡俺のために嫉妬してくれる彼女が見たかった｡だから態と嫉妬させた｡不安にさせた｡Aが俺を愛していることをもっと身をもって知りたかった｡嫉妬の涙の海に溺れる息苦しさを｡恋慕の業火に身を焦がす痛みを｡彼女のぐちゃぐちゃに入り交じった心の中で､感じたかった｡
『ごめんなさ､い｡ …っ』
消え散るような細い声が､か弱く震える肩が､こんなにも愛しく思えるなんて知らなかった｡俺の為だけに流された涙がベッドシーツに染み込む事が､こんなにも惜しいと思うなんて知らなかった｡
｢勘違いしないでくださいね｣
ぎゅうと握り込まれた白い手を絡め取って､そのまま彼女を押し倒した｡細い手に､細い身体｡こんなにも触れるのに容易い｡
『い､ばら…？』
｢別れてもいい､なんて馬鹿な事言わないで下さい｡……生憎､俺は貴女と別れる気なんて毛頭ないですから｡…嫉妬？していただいて大いに結構｡好いた女性にしてもらって､嫌だと感じる男なんて居ないでしょう｣
言葉の端々で､口付けをする｡唇に吸い付く度に顔を赤くする彼女｡不思議な事に涙で潤んだ瞳と蕩けたようなその表情は随分相性が良くて､男の欲を掻き立てる相乗効果を見事に発揮している｡
ぴく､と震える彼女がどうしようもなく可愛らしくて､好きで好きで好きで｡愛している｡言葉じゃ足りないくらい｡もっともっとと貴女の全てを強請ってしまう程には､もう溺れきっていて｡もう十分愛されているのに､俺の肺はもう空気入れ込む隙間など無いくらい貴女からの愛で満たされているのに､まだ｡まだ｡欲しい｡
好きだ｡それしか言えないくらい頭がくらくらクスリ漬け｡甘すぎて濃すぎて脳が働かない｡今まであんなにもAの感情丸出しの表情を見たかったくせに､知りたくなかったとさえ思う程｡
歯止めが効かない｡掛けようなんてもうしない｡
…俺をぶっ壊してしまう､そんな君を知りたくなかった｡
▼私と貴方の楔 乱凪砂 ※みな様リクエスト→←▼そんな君を知りたくなかった 七種茨
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春永詩帆(プロフ) - 最高です、素晴らしい作品をありがとうございます。 (2021年12月31日 23時) (
レス) @page28 id: 46695abdda (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - 藍原春陽さん» 申し訳ありません！只今修正致しました。不甲斐なくもたった今気付きました……。ご指摘ありがとうございます！ (2020年11月28日 23時) (レス) id: 9398c4b575 (このIDを非表示/違反報告)
藍原春陽(プロフ) - 全部の話がきらきらしていてとても好きです。ひとつだけ、本文中で凪砂が凪紗になっていることが気になりました。できれば訂正お願いします。これからも頑張ってください。 (2020年11月28日 0時) (レス) id: b2c9d88620 (このIDを非表示/違反報告)
素敵帽子(プロフ) - のんさん» ありがとうございます！嬉しいです (2020年8月15日 12時) (レス) id: 3919641d26 (このIDを非表示/違反報告)
のん - 応援してます (2020年5月30日 1時) (レス) id: b1f19877ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：素敵帽子 | 作成日時：2019年8月18日 12時
