アイドルの恋愛事情。

▼そんな君を知りたくなかった 七種茨 ページ15

“今日のライブは非常に楽しかったです｡ご観覧頂きました皆々様のおかげであります！次のライブがいつになるかはまだ不明ですが､その時はまた今日の様に､皆様のハートを征服しに参りますよ！”

何だろうこれは｡
誰が書いているんだろうかとユーザー名を見てみるも､そこには見知った名前しか無くて｡言わずもがな､茨のアカウントである｡こんな事を書き込むのも､アイドルの仕事なんだろうか｡
…彼も非常に面倒臭い仕事に就くものだなぁ｡

なんてくだらない事を考えるも､見る間にどんどんいいねとRTの数が増えていく｡何だこれ｡素晴らしく気持ちが悪い｡リプも引いてしまうくらいにあって､彼がこれをいちいちチェックしなければならない事を考えると､何だか滑稽に思えた｡こんなものに彼は時間を使うのだ｡

＿＿＿＿＿＿きっと､私との時間を減らしてでも｡



『……あーあ｡ バカらし』



そんな事になるなら､どうせ今日はそうなるのなら｡会わないでおこうか｡暗黙のルールになりつつある､ライブ後は私の部屋に来るという約束を､今日は取り消してしまおうか｡あぁ…そうか｡ そうだったのか｡やけにいつもよりスマホを触る時間が長いと思えば｡茨はいつも､こんな事をしていたんだ｡

まぁ､至極当然の事だと思う｡
茨にとって､私程度の女なんて履いて捨てるほど居るだろうし｡今はアイドルの仕事も軌道に乗り始めた頃だと言っていたから､私なんかの存在より其方の方が何倍も＿＿＿＿否､何十倍も大事なんだろう｡

当たり前だ｡一時の恋心(と呼べるものかは知らない)と､一生を決める仕事｡どちらかを選ぶとしたら､まぁ皆当然に自分の将来なのだ｡



『…そりゃあ彼女の有無よか､ファンが居るかどうかの方が茨にとっちゃ死活問題だよね』



また､胸がぢりぢりと焼ける｡走って振り払ったはずのもやもやが更に濃くなって､息がしづらくなる｡茨にとって､私は大事なんだろうか｡傍に居て､私は許されるんだろうか｡

…あぁ､何で私が悩まなければいけないのだろう｡


私は彼女なのに｡有象無象のファンなんかより､茨の事を分かっているのに｡取られたくない｡茨の一番は私でありたい｡茨の頭の中をずっと私だけで満たしたい｡

もう嫌だ｡嫌だ嫌だ嫌だ｡


“茨くんのこと好きになっちゃった”
“茨くんかっこいい”
“茨くん､私の心に侵略して”


………何奴も此奴も｡
うるさいうるさいうるさい｡

私の茨なのに｡
好きになるのは勝手だけど､奪うのだけは許さない｡私は茨が好きで､茨も私が好き｡それだけで良かった｡





茨の事を好きなのは､私だけで良いのに｡

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