【呪術廻戦】 これは、君を想うまでの物語

＊ ページ30

「(胴体ガラ空き！！手加減した打撃で油断しまくってる今ならキマる！！)」

「(”黒閃”！！)」


打撃をする刹那脳裏に蘇る断片的な記憶。忌まわしいあの呪霊が仲間だと含みを持たせて言った。それだけで十分だ。友達の母親を殺そうと企み、それに留まらず友達を殺しかけた憎いあの呪霊と。仲間だと。立ち去る前伏黒は死ぬことを禁じた。自分は応えた。ここで死ぬ訳にはいかない。ここで祓わない訳にはいかない。ここで、ここで。

思いが溢れ出して目を血走らせ激情のままに拳を腹に沈ませる。


「クソ！！」


だが、打ち込まれたのは通常の呪力を纏った打撃。”黒閃”ではなかった。思わず悪態が口から零れ出る。大したダメージを与えられず怯むことなく追撃を仕掛けた花御の襲い来る木々を後ろに飛んで回避。そんな虎杖の耳に東堂の呼びかける声が届いた。


「虎杖(マイフレンド)」


左頬に当たった衝撃と共に鋭い音が辺りに響く。東堂の平手打ちが虎杖を襲った。味方だと思っていた相手からの掌打。困惑が顔を染める虎杖に真剣な顔で言の葉を紡ぐ。手を出さないと言った。けれど止めなければならなかった。止めなければならない理由があった。何故ならば。







「”怒り”は術師にとって重要な起爆剤(トリガー)だ。相手を怒らせてしまったばかりに格下に遅れをとることもある」

「逆もまた然り。”怒り”で呪力を乱し、実力を発揮できず負けることもな」

「伏黒(とも)を傷つけられ…、そして何より親友である俺との蜜月に水を差され…。オマエが怒髪衝天に陥ってしまうのはよぉーく理解できる」

「だがその怒り、オマエには余る。今は(・・)収めろ」


悪意の塊である呪いと立ち向かうのはその悪意を真っ向から受けるのと同義。心を揺さぶられると平常時と同じ状態を保つことは難しい。”黒閃”が発動しなかった訳を単純明快に説明してみせる東堂を虎杖は目を見開き聞き届けた。今度は右頬に平手打ちが炸裂しまたも破裂音が高鳴る。双方その顔はスッキリしていて甘んじて受けたと言わんばかり。

二人を見つめる花御にはこの状況がイマイチよく理解できず疑問符が頭に浮かぶ。


「(仲間割れ…なのか？)」

「消えたか？雑念は」

「ああ、雲一つねぇ」

「＿＿＿Thank you so much 東堂(ベストフレンド)！！」


もう、大丈夫。後悔も憤怒も殺意もオマエが消してくれたから。

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