第十三夜 夢日記 ページ15
「うわっ！？」
ジリジリと鳴り響く目覚まし時計のベル。ガバッ、と身体を起こしたAはすぐにそれを止めると、布団から立ち上がる。急いでぐるぐると薄っぺらいせんべい布団を畳み、すぐに台所の冷蔵庫から、タッパーに入ったおかずを取り出す。
この部屋は、学生寮といえど本当に狭い。台所も、自分の部屋も、全てが一つになっているのだから。後ろを振り返れば台所、すぐ目の前には、学習机。学費込みの寮だから文句は言えないが、もう少し広くならんのかといつも思う。
「あちゃ、もう時間ないっ……」
机にパン、とタッパーを叩きつけ、蓋を開けようとするが。
「あ、れ……？」
うわ、と彼女は顔をしかめた。まただ。
また、“アレ”だ。
自分の左腕を顔の前に持ってくる。
「『今日は旅団の皆で、ババ抜きをした。私は連敗で、クロロさんは連勝していた』」
自分の腕を、こする。微かに滲むマッキーペンのその文字。
かれこれ、“こんなこと”が続いて一ヶ月であろうか。ある朝、Aは気付いたのだ。自分の腕に、見に覚えのない落書きがあることに。寝ぼけて書いたのだろうか、と疑問に思ったが、どうもその内容はなぜかリアリティのあるもので、夢遊病でも無い限り、こんなにはっきりした文章を寝ぼけて腕に書くなんてことはないだろうと思った。
一番始めは、日記を書け、と記されていたのだった。ちらりと時計を見たAは、もう今更急いでも一限目には間に合わぬ事に気付き、一つ溜め息をつく。
自分の机に近付くと、その引き出しを引き、一冊のノートを取り出した。そう、Aはあの日から、この腕の内容通りに、ずっと日記を書き続けている。
これは一体何なのか。考えあぐねても答えは出てこないし、勿論こんなものを腕に書いた覚えも無い。それでも、日記をこのまま書き続けていれば…いつか、その答えに辿り着ける気がした。
腕に書かれてある内容は様々で、やたらと出てくるワードは、“クロロ”という単語だ。どうやら人の名前らしいが、勿論そんな人物は自分の知り合いにはいない。他にも、様々な人の名前らしき単語が出てくるが皆目見当がつかない。Aは、静かにノートのページをパラパラとめくる。
『今日は街へ、クロロさんとご飯を食べに行った』
『今日は皆で腕相撲大会。ただ私は見ているだけ』
『クロロさんとただ街を歩いた』
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作者名：アユミ | 作成日時：2018年11月15日 0時
