二度ある黒尾は三度ある【黒尾鉄朗】

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「お仕事は？この辺り？」

『いえ、今回は学会で来てるだけで…
普段は東京で勤めてます』

「ふぅん。同じだな」

『同じって……東京なんですか？』

「そ。こっちには出張で来てるだけなんで。
状況的にはオネーサンと一緒」






自然に会話を進めていく彼のおかげか、わたしの心境なんて放ったらかしでポンポンと話が続く。


まだ東京にいるんだ、とか。
そうしたら東京でまた会えるかも、とか。
そんなヨコシマな思考がだんだんあふれてきて。


お互い仙台まで大変ですね、なんて微笑みながら言われてしまえば、ドロドロ、なんてどこへいったのやら。すぐに舞い上がって、頭の中はお花畑状態だった。






緩みきった顔を必死に隠していると、そういやさ、と彼から切り出された。
綺麗な瞳と目が合って、緊張からか、少しだけ、口元に力が入る。






「改めて聞きますけど、今夜、どうします？」

『え、今夜…？』

「最初に誘ったでしょ？
バレー、興味あるならって招待しますよって。

自己紹介もしたし、知らないおっさんに連れてかれる心配も、もうだいぶ減ったと思うんだけど」






その言葉に、つい数分前にもらった名刺を思い出す。

彼はバレーボール協会の競技普及事業部。
きっとその名の通り、バレーボールを広めることが仕事。






〈 「オネーサン、バレーに興味あります？」 〉







わたしは、バレーボールの広告を見ている時に声をかけられた。そして今、その試合を観ないかと誘われている。

彼にとってこれは、あくまで仕事なんだ。




別に何を期待していたわけでもなかった。
とっくに、何なら中学生のあの時に切れたと思っていた縁が、どういう偶然か一瞬繋がっただけのこと。

いつ切れててもおかしくないものが、本当ならもうボロボロであるはずのものが、ほんの一瞬、気まぐれで繋がったようなものだから。



わたしに残された道は、一つしかない。






「でもまぁ、お仕事あるみたいだし、無理にとは…」

『行きます』

「ん？」

『行きます。
……黒尾さんと、一緒に行きたいです』






追いかけて追いかけて、それでも届かったあの時とも。勇気が出なくて思い出で終わらせてしまったあの時とも違う。

これが偶然でも、気まぐれでもいい。




決意を込めて黒尾さんを見つめれば、いつかと同じ、右の口角だけが器用に上がった。






「もちろん、喜んで」






チャンスがあるなら、全力で掴みにいく。

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